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仮設風向計/詩集その3

空白の人

作者: 浅黄 悠

白い布を押しかぶせられた瞬間だった

写真機も録音媒体も上書きできないことを

吟味する間もなく白い布が視界を覆う

だから私はそれはもう

酷い人間のように君を見ている

君が引き裂いてしまった壁が修理され

君が使っていた電話が不通になり

君の肉と骨とは燃えていった

吐き気を催す生々しさがあったに違いない

君の皮膚には匂いがある

寝食もすれば排泄もする

細胞が古くなって代わっていく

殴り飛ばせば青痣ができるし無理をすればくたびれる

私の全て見えないところで君はつつがなく引き取られていった

白い礼服を着た彼等は優しい目をして私に言った

「思い出だけ抱いて生きるのが幸せだ」と

白い菊さえ片付けられた後で


先回りされているように見えた

清い人が涙を流している故に

私は泣けない非情

君を良く知る人が口を開いているから

私は傾聴する外野

悲しさとは悲しいことだということが知りたかった

嬉しさや喜びなら手に取れずとも分かるのに

欲や我儘を言うとして

どうせなら底の底まで悲しみというものに潜り込んでみたかった

悲しみはあってはならないものではないと思う

喪失とは目を逸らすほどのものでもないと思う

増してや希少な背徳の嗜好品というほどのものでは……

それでも私のような誰かが

喉が焼けるような食べ物の缶詰にたどり着き

指を使って舐めつくしている


君は青衣を纏う女神ではない

空は水と空気の塊で

花は受粉の為に咲く

思い出に価値を持たせなかった私はどこかおかしい

苦しむ君と一番輝かしかった君との思い出を並べたなら

苦しむ君を迷わず選んで

是非とも見つめていたいと願い出るであろう

だからこその罰なのかもしれない

今日も新しいものが無い私のために

思い出の中の無尽蔵な君が身を起こす

君よまた会おう

白菊がそこらじゅう狂い咲く部屋の中で


傷も無いのに絆創膏を貼り

打ち身も無いのに包帯を巻かれ

何も見ていないのに何も見えない状態で

安らかに眠れる布団の上に横たわるのは私

これが悲しみかあれが悲しみか

彼等が見ている私は何者か 君が言い忘れたことは無いのか

酷い人間である私は酷い人間のように君を見る


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