イベント発生?
2時間目終了を告げるチャイムが鳴った。四月はどことなく緊張が張り詰めていた教室も、ゴールデンウィークが明けると初々しさもなくなってきた。ブレザーを着ている生徒も少なくなってきて、それとなく高校生っぽくなっていた。ナギサも周りと同化するように、ワイシャツにベストに衣替えしていた。けれど、友達がいないのは変わらない。
好んで一人でいるわけではないが、気を遣い合って積極的に集団行動をしたいとは思わない。けれど、やっぱり昼休みの教室は、ナギサにとっては窮屈極まりなかった。教科書とペンケースを机に押し込み、合皮のスクールバックからお弁当と水筒を取り出して教室を出た。
今朝、登校しているときに唐突に思いついたのだ。
「高校と言えば屋上じゃん!」
高校生が主人公の少女漫画には欠かせない絶対要素、屋上。なんで今まで気づかなかったんだろう。生徒手帳の最後のページに載っている校内地図を見ながら屋上の入り口を探した。
「ここかあ」
1組の教室からは階段を二階分上がり、北校舎から南校舎まで移動して、やっと目的地にたどり着いた。数人の部員以外は立ち入らない、小視聴覚室。映像研究会の部員以外は滅多に立ち入らない部屋の隣に、屋上の入り口はあった。シルバーの大きな扉はところどころさび付いている。重厚なそれにはチェーンがぶら下がっているが、
「外れてる…?」
ドアノブを下に引いて全身を扉に預けて体重をかけると、ギギギと低い音をたてながらゆっくりと太陽の光が差した。思わず目を瞑り、顔をしかめる。扉がこれ以上動かないというところで恐る恐る目を開けてみる。わあ、とナギサは思わず声を漏らした。
屋上の壁と床は真っ白で、陽の光を弾いていた。学校は3階建てだが、風が吹いていることもあり、十分に高さを感じられた。思ったよりも狭かったが、こんな穴場なのに人がいる様子はない。
「なにここ、最高だよお!」
真ん中に屋根のついている空間があり、座ってみると、ちょうどナギサが隠れられる程度の影の面積だった。
水玉の巾着を取り出して、お弁当を広げる。定番メニューの焦げ目のない卵焼きとたこさんウィンナーたちが、なんだかいつもよりも美味しそうに見えた。添え物のプチトマトにフォークを突き刺そうとしたときだった。
「そこにいる人、こっちに来なさい」
体が固まった。自分の他にも誰かいる。生徒か?いや、本当は立ち入り禁止で先生にバレたのか?一瞬でいろいろな思考が駆け回るが、肝心の体が動かない。
行くべきなの?それともお弁当を置いて逃げようか?
「そんなところにいて先生にバレたらどうするの?こっちに来て」
二度目の声が怒号が飛んできた。女子の声にしては低く透き通る声だ。先生にバレる、ということは生徒だろう。よく見るとナギサのいる右側に簡易的な扉があり、屋上は2つに隔てられているようだった。慌ててお弁当を巾着に仕舞いこみ、水筒と一緒に抱えて立ち上げる。バクバクと音が鳴る胸を必死に抑えて、ナギサはドアノブに手をかけた。