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#1 異世界転生できないJKの憂鬱

チートも武器も使えない陰キャ女子高生が屋上でパーティーを組んでダンジョン!?

ラジオが友達のおかっぱと覆面ラノベ作家とアイドルオタクの、退屈な日常と決別する奮闘記です。


※現実世界の物語です。

※筆者、ラノベ初挑戦です。

 昔から桜が嫌いだ。みんなは綺麗だとか可愛いだとか言っているけれど、好きな理由は大抵、小さくてピンク色というだけなのだ。そんなの保育園児が言うことだろうと私は思う。咲くタイミングなんか、とてつもなく間が悪い。入学式の日には三分咲きだったくせに、四月も終わりのこの時期に、部屋の窓から見える公園には、青い空に届かそうと言わんばかりに、薄ピンク色の花びらたちが満開に咲き誇っていた。

「あーーーー、嫌になる」

 家から学校までは20分足らずだ。たったそれだけの道のりが、ナギサににとっては重すぎるのだった。

 

 別に、高校生活になにかを期待していたわけじゃない。新しい環境に身を置いたところで、簡単に新しい自分になれるなんて思い上がってはいなかった。いなかったけど―。


 鏡に映る紺色のブレザーに身を包んだ自分が、どこかくたびれて見えた。青地にチェックのスカートにお揃いのネクタイは、この辺りでも可愛いと評判の制服だ。比較的自由な校風の由良が丘高校では、大半の女子生徒がスカートを折ったりネクタイを外したりしているけれど、日常生活で注意されることはまずない。まだパリッとした、新しい匂いがする制服を着ると、ナギサはより一層憂鬱な気分に包まれた。これをあと3年も着なくてはいけないと考えると頭が痛くなる。入学祝で親に買ってもらったヘッドフォンを耳に着け、スマホの音量をマックスにしてローファーに足を入れる。

「!?▽〇☆!✕」

 急に耳の外側から声がして、ヘッドフォンを耳からとって首にかけた。

「あんたね、毎日でっかい音聴きながら家出るけど車とか気をつけなさいよ?!入学早々事故なんて、しゃれになれないんだから」

 毎朝の、母親とのやりとりだ。自分で買い与えたくせに、と言おうと思ったが、そんなこと言って没収されたら困る。はいはい、と適当にあしらって玄関のドアに手をかけると、行ってきますは?!と、また大きい声が背後で聞こえた。行ってきます、とわざと大きい声で返して急いで家を出た。ただでさえチャイムぎりぎりに到着するように時間を計算しているのだ。遅刻なんてして悪目立ちしたくなかった。

 

 おはよー、と屈託なく明るい声が飛び交う教室が苦手だ。もちろん、私に向けられた声ではない。女子同士の「おはよー」は、私たち今日も友達だよね!と、仲間意識を確認する信号でしかないのだ。教室の席順は入学したときと同じ、名簿順だった。『雨宮ナギサ』は1番なので最前列の右側である。教室の喧噪を潜り抜けることなく席に座れることはラッキーだった。


 1時間目も2時間目も、ナギサの中では同じような時間が流れていた。先生たちは必ずと言っていいほど、ナギサから順番に当てていく。自分の番が終わったら白い文字で埋め尽くされた黒板を眺め、なかなか進まない時計の針をじっと見つめる。それに飽きたら昨日聴いていたラジオを思い出しながらノートをとって、また時計を見る。

 昼休みになると、教室にはいくつかの島ができる。ナギサはそのどれにも属さずに、またヘッドフォンを耳に着けてお弁当を広げる。午後の授業も半分空想をしながら受けて下校する。

「けっこう勉強して入ったのに、私の高校生活こんなんかよ…」

 学校からの帰り道、ナギサは毎日疲れていた。

 なんだったら、ここで車にでも轢かれて異世界に転生できたらもう少し刺激的な人生になれるのだろうか。いや、とすぐにかぶりを振る。友達はいないけれど、お母さんたちはきっと悲しむだろうなあ。

 

 そんな考えを巡らせていると、もう家の近くだった。公園の青い滑り台に、はらはらと桜の花びらが舞い落ちている。風に乗ったひとひらのそれが、ナギサの右肩に乗っかった。

「早く全部散ればいいのに」

 優しく取り払って風に乗せてやると、桜は不安定な動きで宙を舞っていった。


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