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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

牙を研ぎゴブリンを喰らう死なずの冒険者―――冒険者達に提供されている食材

作者: 大介丸

辺境の街『トラキニア』へと続く乾燥して土がむき出しになっている道を一台の荷馬車が移動していた

荷台には、数十個以上の黒樽が乗せられていた。

「―――この一か月『ウィンルム』から『トラキニア』に荷物届けてますが、届ける度に

『トラキニア』側の受取人が複雑な表情浮かべるんですが、中身は魚と肉ですよね?」

荷台に視線を向けながら、年若い男性が尋ねた

「俺達は運び屋だ。それ以上もそれ以外もない。

運搬料金は適切に支払ってもらっているし、問題ない。それと詮索好きは嫌われるぞ」

頬骨も露わな、痩せこけた男性が短く応えた



樽を乗せた荷馬車は、道中何事もなく辺境の街『トラキニア』に到着した。

『トラキニア』は周囲は高い城壁で覆われ、数々の道が荘厳な門の方に集まっている

荘厳な門を目指して人間種族の他に、様々な異種族が歩いていた

大半が冒険者パーティーや商隊だ。


門の前では冒険者や商隊が検閲待ちで並んでいる。

『トラキニア』の屈強な警備兵が手元に持っている手配書で検問をしているためだ。

順番に荷馬車が門番の前で止まった。

「どうも、運送屋『戦狐生協』です。

『ウィンルム』からお届け物を運んできました」

年若い男性がそう告げながら、何かの許可証らしき紙切れを警備員に手渡す

「――――ご苦労さん。今回もまた多いな・・・」

渡された紙切れを確認しながら、警備兵は感情を押し殺した表情で告げる

その表情も、何処か必死に何かを押し殺している様だ

「これでまだ一部ですよ。次の便で三台ほど同じ量が到着予定です」

年若い男性が応える

「・・・・何の不備もない。このまま街に入って「冒険者ギルド」の裏手まで運んでくれ」

警備兵は引きつる様な表情を浮かべながら、許可証らしき紙切れを返した。

年若い男性が短く礼を告げると、街の中へと入っていた。




荷馬車は、何事もなく大きな酒場と宿場を組み合わせた『冒険者ギルド』へと到着し、裏手で止めると

樽を降ろしはじめた。

度々休憩を挟み、冒険者ギルド職員と会話をする

「五日後には、三台ほどこちらに到着する」

痩せこけた男性がそう告げながら、受け取り用の一枚の紙を冒険者ギルド職員に渡す

「・・・・・これと同じ量?」

冒険者ギルド職員は、何とも言えない微妙な表情を浮かべながら紙にサインをする

「ほぼ同じ量だ」

痩せこけた男性が応えた

冒険者ギルド職員は、短く呻き声をあげた



『冒険者ギルド』の調理場では、暴力までの食欲を刺激する肉の焼ける香ばしい匂いが

充満していた。

匂いと音は、食欲を刺激する魔力があった

鉄板の上には厚さも一センチに近い肉が、ざっと十枚ほど乗せられていた

十枚の肉には、簡単な調味料をまぶすされただけでジワジワ焼かれている。

「ステーキ肉を注文した冒険者は、取りに来てくれ!」

肉を焼いている調理人は、焼けてきた肉を皿へと盛ると客―――冒険者に告げる。

皿に盛り付けられた肉を、注文した屈強な冒険者達が次々と自分で運んでいく



皿に盛りつけられた一センチに近い肉を、屈強な冒険者達が口の中へ放り込み、咀嚼し続ける

「 『トラキニア』の肉料理は、他とは全然違うぜ!!」

中毒者の様に肉を引きちぎり、咀嚼している冒険者が吠える様に告げる

それを聞いた、同じ料理を注文した冒険者が同意とばかりに返事をしている

この肉料理の他に、焼魚料理もこの街に訪れる冒険者や旅商人にも評判がいい。

またこの肉は、ここで料理として出されている人参、たまねぎが入った薄い塩スープにも混ぜられて

入っている。

こちらの料理も評判が良い

その様子を何とも言えない表情で、調理人が見ていた

「・・・知らない事は幸せな事だな」

ぼそりと呟いた



―――肉と魚の送り主は、迷宮都市『ウィンルム』の迷宮で大量発生しているゴブリンを喰らい続けている

あの少年にも少女にも見える美しい中性的な貌の冒険者だ。

『ウィンルム』の迷宮は、他の地域に存在する迷宮よりも浅く五層ほどしかない。

中性的な貌の冒険者は、最初に訪れてからこの一か月は『ウィンルム』の迷宮から地上に戻ってはい

ない。

大量発生しているゴブリンをひたすら喰らい続けて、現在四層にいた。



薄暗い迷宮の中に人の影があった。

影は黒いシルエットとなって、ゆっくりと怯えながら腰を抜かしているゴブリンに近づく

そのシルエットの正体は、あの「ゴブリン狂い」と言われている中性的な貌の冒険者だ

中性的な貌の冒険者はゆっくりとゴブリンに近づくと、意外なほどの強靭な力でゴブリンの脚を掴み、

四層の東側に三つ並んでいる中部屋まで引きずり始めた

少年にも少女にも見える美しい中性的な貌から異常なほど荒い鼻息が聞こえる

それは力の入る作業を行っているせいばかりではなく、むしろ込み上げてくる精神の昂ぶりからくる様だった

ゴブリンは本能的に恐怖を感じたのか奇声を発する



三つ並んでいる中部屋まで来ると中性的な貌の冒険者は真ん中の部屋のドアを蹴り開け、ゴブリンを

中に運び込む。

運び込んだゴブリンを地面に放り投げると、中性的な貌の冒険者は頬をわずかに緩ませ、穏やかな

笑みを浮かべた

右手には研ぎ澄ませた解体用ナイフが握られている

ゴブリンは小刻みに鼻で息を繰り返し喘ぐ

「 『ギルドマスター』が、『他の冒険者にばれない様にしろ』と煩いんでね」

中性的な貌の冒険者が真冬を思わせる様な声で告げる

その眼は獲物を前にした飢えた獣の様に、狂喜と歓喜が入り混じった輝きに溢れ、わずかに開いた

口元からは、いまにも舌舐めずりしそうな赤い肉の戦端が覗いている。

ゴブリンは再び奇声と喘ぎを洩らし、両の眼から溢れた涙が醜悪な顔面を覆っていた脂汗に混じって頬を

伝って落ちる


中性的な貌の冒険者は、そうしたゴブリンの状態に満足したかの様に静かに頷くと、解体用ナイフを構えてゴブリンに突進した。

解体用ナイフの刃が下腹部突き刺さると、ゴブリンは猛烈な苦痛に室内を震わすほどの絶叫を発した

中性的な貌の冒険者は、それに合わせるかのように歓喜の雄叫びをあげると何度も何度も突き刺す。

息絶えたゴブリンの肉をかき分けて、内臓を引きずり出すとむしゃぶりつくように食らう。

口の中で咀嚼しながら、解体用ナイフでゴブリンを解体作業を続ける

狂喜と歓喜が入り混じった表情でゴブリンの肉を喰らい続けていた中性的な貌の冒険者は、突然動きを

止めた。

床に解体用ナイフを落とすと全身を震わせた。

そして肺から絞り出されるような絶叫を発し、床でのた打ち回りはじめた。

額を床に何度も何度も繰り返し叩きつけながら絶叫を発する。

中性的な貌が血だらけになってもその行為はやめない

それだけでは収まらず部屋内を走り廻り壁という壁に身体をぶつけ、爪がぼろぼろになるまで壁をで引っ掻く。

中性的な貌の冒険者はしばらく爪で壁を引っ掻き回した後、両手で口を押さえながらよろめく様に部屋の

隅まで移動する。

その先には、蓋の開いた黒い樽が4つ置かれていた。

その隅に歩いている間に血まみれの貌やボロボロになった爪は、時間を捲き戻す様に元の素顔や爪に戻っていた。




中性的な貌の冒険者は樽の一つに貌を突っ込むと、ぐぇ、ぐぇと呻きながら嘔吐をはじめた

口から吐き出される嘔吐物は――――新鮮な魚類と肉の塊だった。

全て吐き終えたち中性的な貌の冒険者は、鬼の様な形相を浮かべながらぐちゃぐちゃになるまで原型が

留めていないゴブリンの死骸がある場所まで戻る。

そこには、すでにゴブリンの血溜まりが出来ている。

中性的な貌の冒険者は両膝を床に突いて血溜まりに貌を近づけ、貪り呑む

その血が無くなっても、凄まじい形相を浮かべながら舌で舐めまわす。


舐め終えた所で後頭部から激しい衝撃が、中性的な貌の冒険者の全身に食い込んだ

中性的な貌の冒険者は、地べたへとぶっ倒れた。

後ろには、粗雑な革鎧を着込んだ大柄なゴブリンが佇んでいた。

右手には血が滴り落ちている棍棒を持っていた。

大柄なゴブリンの傍らには中性的な貌の冒険者が喰らっていた小柄なゴブリンが数十匹が憎悪と憤怒の表情で佇んでいる。

大柄なゴブリンは、冒険者から『ホブゴブリン』と称される種類だ。

知能があるのだろう、ひっそりと取り巻きのゴブリンを引き連れて追跡してきたのだ。

『ホブゴブリン』とゴブリンは、頭から血を噴き出しながら身体を痙攣させて倒れている中性的な貌の

冒険者の身体に錆びた鉈や短刀で身体を切り裂き、ズタボロになるまで棍棒を叩きつけた。

鬱憤を晴らすための苛烈な光景は、まるで悪魔の踊りにも似ていた。

奇声をあげながら、今までの鬱憤を晴らしていた『ホブゴブリン』とゴブリンは、悪相から徐々に血の気が総退却し、汗の球が追い打ちをかけはじめた

全身が分解するのではないかと思われるほど激しさで痙攣をはじめる。

『ホブゴブリン』とゴブリンは、パニック状態に包まれながら苛烈な報復を繰り返す。


全身をズタボロにされているはずの中性的な貌の冒険者は、まるで時間を巻き戻すかのように傷口を

修復している。

切り裂いても僅か数秒で巻き戻り、ぐちゃぐちゃに潰しても、これまた数秒で時間を戻す様に元の

状態に戻った

「食事の邪魔をするな お前らも後で食ってやる」

中性的な貌の冒険者は、真冬を彷彿とさせる様な声で告げると、『ホブゴブリン』の心臓に解体用ナイフを一突きする

きっかり30センチの長さを誇る刃を根元までめり込ませ、左右に捩じって空気を入れる

中性的な貌の冒険者は、ぐったりとなった『ホブゴブリン』から血が滴る心臓を取り出し、まるで果物でも食べているかのように齧りつき咀嚼する。

咀嚼途中に、再び全身を震わせ奇声をあげながらのたうち廻る。

取り巻きのゴブリンは、一匹一匹と次々と部屋から脱兎の如く飛び出していった。


―――――その光景を部屋の外で伺う2つの人影があった。

その2つの人影は、闇夜よりも濃い漆黒の色で統一した軽装だ。

2人とも両手を黒い革手袋で覆い、フード付きのマントを羽織っている

この2人は、辺境の街『トラキニア』の冒険者ギルドに所属する『汚れ仕事』専属のギルド職員だ

『汚れ仕事』専属のギルド職員は、各地域の「冒険者ギルド」に1人、2人は必ずいる。



「何かもう、2年も経つとこれ自体が可笑しいと思わない自分自身がいて怖い」

1人がぼそっと呟く

「奇遇だな 俺もだ」

もう1人も、それに応える

「・・・あの「ゴブリン狂い」の素性は、2年経ってもわからないのか?」

先に呟いた1人が尋ねる

「調査班が動いているが、『トラキニア』に来るまでの足取りがまったく掴めていない。

何処の国の何処の地域の出身で、どんな街で育ったのか・・・まったく不明らしい」

質問を受けた人影が応える

「・・・やはりハイエルフの血が流れているんじゃないのか?

あの種族の好物はゴブリンの肉だろ?」

質問した人影が尋ねる

「だが、異様な再生能力はない」

質問を受けた人影が応える

「まったく、処理班の連中のミスでこんな仕事に発展するとはなぁ・・・。

あの樽も、鍛冶屋集団『ドワーフ工作連隊』に発注しているオーダーメイドだろ?

製造費用も高いはずなのに、なんで処理場に運ばれずに冒険者の「クラウン」の食糧調達班に送られたのか未だに謎だ」

先に呟いた1人が呻く様に呟く

「書類上のミスだ。

今では、その「クラウン」もあの肉と魚の影響により巷では有名だ」

質問を受けた人影が応える

「・・・「ギルドマスター」も何の考えがあってかわからないが、あの肉と魚について『トラキニア』を

中心として活動する冒険者と住民に箝口令を指示しているしな・・・普通なら暴動が起こるぞ」

先に呟いた1人が呻く様に告げる

「主な有力者に事の真相を説明したんだ。

もう後と戻りは出来ぬ」

質問を受けた人影が応えた

「あの「ゴブリン狂い」め・・・殺せるなら殺してやりたい・・・」

先に呟いた1人がそう告げる

「諦めろ。ドラゴンの炎を受けようが、氷漬けにされようが、石化されようが・・・「ゴブリン狂い」は

数時間後には、何事もかった様にギルドでゴブリン討伐を請けおっている。

無駄な事はしない事だ」

質問を受けた人影が応えた。

部屋の中からは絶叫と何かをぶつけながら走り廻る音が響いていた。





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