指し示すポイントを求めて
・これまでのお話・
突然の長期メンテナンスで、サービス停止していた位置情報型アプリゲーム「神界の門」
それがアップデートとともに再開されると知った大学2年生の工藤樹は、久々にゲームが出来る事を楽しみにしていた。さっそく起動すると、見たこともないような強い反応を示すポイントが現れる。
しかしそのポイントの位置は、どうみても山奥の中だった。
パノラマ機能、忘れた時に思い出しますよね。
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この時代、日本に未踏の地なんてないと思う人がほとんどだろう。
確かに、詳細な地形データなどがゲームで使われるくらいだから当然といえば当然だ。ただし、意識して人が行こうとも思わない場所はいくらでもある。
「もう帰りたい」
長野県の大学に通う俺こと、工藤樹は大変に後悔していた。
午後の講義がなかったため、アプリゲーム「神界の門」に表示された、山奥の召喚ポイントに向かい出発して2時間。周りを見渡せば完全に未踏の地。実際には山道らしき痕跡があるので、過去にちゃんと人の手が加えられたものかもしれないが、どう見ても最近人が通ったような痕跡が無い。
長野県といえば、自然に囲まれた有数な観光スポット。実際に行ったことがない人でも、イメージとして田舎のお爺ちゃんお婆ちゃんを想像することだろう。まぁだいたいそのイメージで合ってはいるけれど、それも昔の話。今では土地開発も進み、市街地に行けば高層ビルやマンションなども立ち並ぶほどだ。だからこそ山とはいえ人の手が入っているだろうと、タカを括っていた。
「これだけ歩いても辿り着けないのは誤算だったー!」
誰もいない山中でひとり叫びながら天を仰ぐ。雲一つない青空が広がっているのが唯一の救いだ。この状況で雨なんて降ろうものなら、さすがに即・撤退する。山登りあるあるだが、山は決して直線距離で進めない。マップで近くに見えても、想像以上に距離があるのだ。再びゲーム画面を表示させマップで位置を確認すると、現在地と表示されている召喚ポイントまであと少しの位置に来ていた。
「そろそろ発見通知がきてもおかしくない位置なんだけどなぁ~」
普段から肉体労働系のバイトで身体がそこそこ鍛えられていたせいか、多少の疲れはあるものの足腰はそこまで重くない。何度かの休みを経て登っていくと、突然視界が開ける。
「この辺りが召喚ポイントか?」
山の中腹は平地になっており、背の高い木もない開けた草原になっていた。
まるでそこだけ切り抜かれたような、空からドローンで見れば過去に隕石でも落ちたのかと思えそうな
見事なまでの円形。
『召喚ポイントに到着しました』
着くと同時にゲームから音声通知が鳴る。
「ここかぁ~…やっと着いた~~」
近くの座れそうな石に腰を下ろしはやる気持ちを抑えつつ、ゲーム画面からアウトカメラに切り替える。召喚ポイントをカメラモードで映しながら探すと、召喚陣が表示される仕組みだ。それをカメラ中央に捕らえることで、召喚儀式がスタートするはず、だが。
「待ってください」
誰もいないのに、つい、言葉が敬語になったのは驚きが勝りすぎていたから。
結論を言うと、カメラに召喚陣を収めることは出来なかった。
「いやいやいやいや、待って。これ、デカすぎでしょ!?」
本来なら画面枠内に収まるはずの召喚陣が、巨大すぎて完全に見切れていた。
画面に映る景色が見渡す限り召喚陣だった。試しに撮影場所を移動し、カメラを引いた状態で全部写そうとしたが、場所を移動してしまうと召喚ポイントから外れてしまい召喚陣も映らなくなってしまった。
「無理ゲーじゃないっすかねぇ…コレ」
遠く離れて引いた視点で撮影を試みるも、召喚ポイントから外れてしまう。
あの手この手で撮影を試みたが、結局どれもうまくいかなかった。
「せっかくここまで来て、こんなデカい召喚陣見つけたのにまじかー…」
相変わらず収まりきらない召喚陣を、カメラ越しに眺めながら項垂れる。
そこでふと、カメラ画面を見て気が付いた。
「パノラマ撮影…」
普通に生活しているとなかなか使わない機能、パノラマ撮影。
撮影したい場所の端から端までをゆっくり動かして撮影することで、主に風景などの広範囲を撮影ができるのだ。成功するかどうか分からないが、この巨大な召喚陣を記念に撮影できればとの思いで、パノラマモードを起動する。
「まぁ、この情報を手に入れただけでも十分な価値だよな」
そう呟き、ゆっくりカメラを動かしながら召喚陣の端から端までをしっかり収めきった所で
召喚陣が認識された事を示す音がスマホから鳴る。
「やった!撮れた撮れた!」
認識された画像を確認するため、そのままアプリ画面を見たが
「映ってない」
そこに写っていたのは、広々と広がる草原を映した風景画像だった。
「そんな都合よく出来るわけないか」
完全に諦めた顔で画面から顔を上げると、目の前の草原に広がる巨大な召喚陣が広がっていた。
「はい?」
おかしな事が起きている、それは自分でも理解していた。
なぜなら目の前に映るものは現実の風景であって、ゲーム画面じゃない。
それでも間違いなく現実の風景に、その巨大な召喚陣は広がっていた。