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第1モンスター

 絶妙な焼き加減の豚肉を切り分け、口に運ぶ。

 口の中で甘辛いソースはとろけるような豚の脂と絡み合い、大して味にこだわらないものでも唸らせる。



 やはり、料理だけならこいつが一番だな



 頭の中で冷静に考えつつ、23番目の彼女に目をやる。



 長い前髪を俺が与えたピンで片側に寄せ、前までは隠れていた目が心配そうにこちらを見つめる。



「美味しいよ、また今度作ってくれ」


「!!!は、はい!!」



 そういうと、彼女の身体から緊張がぬけ、胸をなで下ろす。



 …でかいな



 そんなことを思っていると、もちろん本命が黙っちゃいない。



「たしかに、美味しそうですわね。今度作り方教えてくださる?」



 先ほどの彼女にまた別の彼女が詰め寄る。



 身長は平均より少し高め、雪のような白い肌、絹のような長い金髪は彼女が女神の一柱であることを物語る。



 絶世の美女と言っても差し支えないその顔には貼り付けたような笑顔がある。



 明らかに怒っている。



「豚を使った料理など見たこともなかったので、是非参考にさせてください」



「え、えっと…」



 教えたくないのであろう、詰め寄られた彼女は目を伏せている。



 すると、そこに並び立つ影がまた1人。



「わ、私もいいかしら?」



 綺麗な赤髪をツインテールにし、女神より幾分か小さい彼女は恥ずかしいのか、足をモジモジしている。



 割と初期に助けた彼女だが未だに俺のそばを離れないのは、流石といったところだ。



 するとこちらの視線に気づいたのか、こちらを振り向くと、途端に顔を真っ赤にする。



「べ、別にあんたのためじゃないわよ!!す、少し気になっただけだから!!!!」



「いや、なにも言ってないんだが…」



 そう指摘すると、さらに顔を赤らめ、頭の上から湯気が見えそうだった。



 やはりツンデレはテンプレだな



 そう思いながら微笑みかける。



 すると俺の爽やかな笑顔に近くにいた何人かのヒロインが倒れてしまう。



 少しやりすぎたかな。



 俺の笑顔は女性によく効くらしい、彼女にも気をつけるようによく言われている。

 まあそれがなくとも、下の方の彼女は近づくだけで震えて泣き出してしまうが



 なんて考えていると、窓から入った鳩がくちばしにくわえた手紙を落とし、そのまま俺の方に着地した。



 遠方の使いからの報告書だ。



 ざっと読み通すと席を立ち、この場にいる32人のヒロインに向けて告げる。



「東のピッグナイトの森に行こう、そこでなら食材も取れる」



 名案だと多くのものが口々に呟き、全員が賛同する。



 やはり、俺のやることは間違っていない。


 * * *


「やめろ!!なんで殴るんだよ!!何もしてないだろ!!!!」



 メガネをかけ、少しモジャモジャした髪の毛を持つ少年が泣きながら叫ぶ。


 彼の周囲には5、6人が囲っており、少年に暴力をふるいながら笑っている。


 全員小学校低学年くらいだろう。


「許さないからな!!絶対に許さないからな!!!!」


 少年は親の仇を見るかのような目をしている。



 やめろ、そんなこと言っても火に油を注ぐだけだ。



 その集団から少し離れた位置で冷静に思う。



 そいつらはお前の悲痛な叫びが好きなだけだ。



 思った通り、暴行は激しくなる。



「許さない。許さない、許さない許さない!!」



 その目はこっちを向いている。



 見当違いだ、俺に一体何ができる。



 助けに入ったらこちらがやられる、そんなのはごめんだ。



 おそらく、俺の目は驚くほど冷たいものだろう。



「許さない」



 次第に景色は遠のいていく。



 あの少年は、一体なんて名前だったっけ。


 * * *


 目がさめるとベッドの上だった。

 後頭部から来る痛みは酷く、触ってみるとたんこぶができていた。

 おそらく鈍器で殴られたのだろう。


 死ななくてよかった…、一回死んでるけど。


 周囲を見渡すと、そこはもともと誰かの部屋だったのだろう。


 ベッドの他にも机、本棚、タンスがあり、どれも精巧な模様がつけてある。


 しかし、ところどころ埃がかっており、蜘蛛の巣もチラホラ見え、主が長らく帰ってきてないのは容易にみて取れた。



 自らが置かれた状況は理解できないが、おそらく奴隷などではないようだ。



 そういえば、あのニヤニヤ顔の猫耳がいない。



 だが即座に納得する。


 まあ、見てくれがいいもんなあ。


 あんなことやこんなことをされているのであろうなあ、と下品た妄想をしていると


 ギィという音と共にドアがゆっくり開き


「お身体は大丈夫でしょうか?」


 と、二足歩行をし、服を着た豚がしゃべった。






「お加減はいかがでしょうか」


「ええ、もうすっかり。」


「それなら良かった。目の前でお倒れになられて少々驚いてしまいました。」


「お恥ずかしい…」


 彼女 ピグ美が現れた瞬間、現実を受け入れきれない柳生の頭は完全にオーバーヒートしてしまった。


 そのまま再び倒れ込んでしまったらしい。元いたベッドへ寝かされていた。


 ここはピッグナイトの森と言われる場所であり。その名の通り豚に近い種族の集落となっている。


 森の中の巨大な凹地に作られており、外からは見つかりにくく、そうそう来客はないらしい。


「ほらブームもしっかり謝んなさい!」


「…すんません」


 そう言いながらピグ美の横で不貞腐れている少年が後ろから襲いかかったらしい。


 15歳というピグ美に対してだいぶ背が低いことを考えると10歳程度だろう。


 民族衣装なのであろう様々な柄が入ったスカートとポンチョを着ているピグ美とは違いズボンと動きやすい麻のシャツを着ている。


 薬草を取りに平原まで出たところたまたま柳生をみつけ、国からの偵察者だと思い込んだらしい。


 というのも地面に座り、何もない空間に話しかけている姿はどう見ても怪しかったらしい。


 タマはこの世界の人には見えないのか…?


 結果として柳生には魔力適性が皆無であり。魔法での報告などは不可能なので、ただのヤバいやつということになった。



 密偵を恐れるってことは何かやましいことでもあるのか?



 少なくとも元の世界に戻れない以上今できるのは勇者に会ってみることぐらいしかない。


 しかし、勇者といったら国王やら姫やらがついてくるのはお決まりみたいなものなので、国に対して何かしようとしているここでそのことを口にするのははばかられる。


 扉が開き、メイド服を着た豚、この集落では一般人に当たるピッグルが料理を手に持って入ってくる。


 柳生の目の前に置くと何も言わずに部屋を後にする。


 お盆の上には木の器に粥、そして木のスプーンが置かれている。

 白くトロトロとした粥にはごま油がかかっているのだろう、匂いだけで食欲をそそる。


「これは米ですか?」


「はい、この近くの田んぼで採れたものです。最近は税が上がり、手元に残るものも少なくなってしまいましたが…」


 そう言いながら赤みがかった顔は徐々に青くなっていく。

 みると隣にいたブームも拳を握り、震えている。


 顔とは対照的に2人とも目が赤くなっていく。


 あ、これは地雷かな


 あまり踏み込むのも良くないので、スプーンを口に運びながら、できるだけ陽気に話題を変える。


 天気、文化、最近の出来事などをピグ美から聞き、途中でブームが訂正を入れる。


 どうやら割と天然が入っているのか、


「僕はどのくらいここにいても良いのでしょうか?」


「申し訳ございません、この村に入ってしまった以上しばらくの間は留まってもらわなければなりません」


「それは…なぜなのでしょうか?」


 しどろもどろな敬語を使いながら訪ねるが、ピグ美は口にしてもいいものかと口をパクパクさせる。



 しかし、彼女が何か言う前にノックもなしに扉が開く。



 今度の豚はガタイもよく、柳生よりも遥かに大きかった。

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