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チートな僕が正義執行?  作者: しおん
3/3

3 実力行使

 僕は公園内をうろうろして、恋人たちの痴態を観察して回った。

 書面に起こしたら、結構なレポートになるんじゃないだろうか。


 そして、飽きた。


 恋人たちは飽きもせず、密着しあっているけれど。

 その姿がひどくさもしく見えてきた。


「セラフィ?」


 ぐるぐると辺りを見回して、セラフィータの姿が近くにないことに気付く。


「ねぇ、セラフィ!」


 僕は慌ててセラフィータの姿を探した。

 花の生け垣に取り付いていないか、見て回った。

 入り口のバラ園にいるのではないかと、足を向けた。

 だけど、どこにもセラフィータの姿はない。


「セラフィ……!」


 僕は焦った。

 同時に、恐怖が足下から忍び寄って来るのを、必死で無視した。

 落ち着け。

 考えろ。

 セラフィータの気配を探るんだ。

 僕は精神を集中させた。

 目を閉じると、光の線が輝いて見えた。

 セラフィータの残した軌跡。

 それを辿って、僕は走り出した。

 繁華街を外れ、入り組んだ路地を進み、到達したのは。

『ブラックネスト』

 という表向きはバーのような雰囲気の建造物だった。


「ヒヒヒ。坊や、そこは悪党の巣窟だよ」


 ボロを着た、痩せた老人がやって来て、僕にそう忠告した。


 入り口の階段に、セラフィータが羽織っていた人形用のマントが、残されてあった。

 ここに、間違いない。

 セラフィータは悪党に捕まった。

 僕が、あのとき彼女を追わなかったから。

 僕は、拾った小さなマントを握りしめた。


「悪党の? なら、遠慮いらないね」


「ほっほぅ。坊や。ただならぬ気配だねぇ」


「おじいさん。こう見えて、僕、人間じゃあないんだ。ホムンクルスなんだよ」


「ひゃーひゃっひゃっ。そりゃいい」


 信じたのか、信じていないのか、老人はそう言い残して去って行った。


 僕がホムンクルスだっていうのは、本当。

 ルキフェン・ゼラ・リンドウっていう魔導師が、自分を転生させる為に創った器。

 残念ながら、転生は叶わなかった。

 固有の魂を持たない筈の僕の魂が、この器にすっかり定着してしまっていたから。

 僕の心臓を動かしているのは、賢者の石。

 錬金術師のみが生み出せる、奇跡の物質だ。

 ホムンクルスである僕には、幾つか面白い(ユニーク)スキルが付与されている。

 ユジュンはあまり興味がないみたいだったけど、僕は違う。日々、実践検証している。

 そのスキルの一つに『捕食』があった。

 それを使って、僕は魔人アザゼルを捕食した。

 今も、体内には封印されたアザゼルが息づいている。

 もう一つのスキル、『絶対服従』で、その力はまるっと僕のものなんだよね。

 これって一種のチートだよね。

「アザゼル、力を貸して」

 僕は目を閉じた。

 次に目を開けたとき、僕の双眸は、本来白目の部分が黒く、黒目の部分が赤いという、

魔人特有のそれに変わっていた。

 僕は扉を蹴破った。

 門番と言っていいのか、男が二人、常駐していた。

 中は暗い。

 僕はまず、近い方の左の男の腕を引っ掴んだ。


地獄の炎(ヘルズ・ファイア)


 黒炎が地を這うように、男の腕を焼きながら、喉元まで走って行く。

 男は子供の僕の腕を振り払えないでいる。

 当然。

 魔人の力を行使している今の僕の腕力は、大人のそれを越えているのだから。

 黒炎は静かに、ただ、速やかに男を焼いていく。


「ここに、妖精が運ばれて来なかった?」


「ひっ、ひっ、ひぃいぃぃ!」

 

 答えるより先に、男は消し炭になってしまった。


 もう一人が背を向けて、僕から逃げようとしていた。


「待ってよ。妖精は?」


「ボスが、ボスが……!」


「ボスは、どこ?」


「ちちち、地下に!」


「あっそ。爆炎(バースト)


 僕は遠距離から力を振るって、男の身体を内側から灼いた。


 そんなこんなで、アジト中の賊を消し炭に変えながら、僕は地下を目指した。


 やっとこさ地下室のドアを見つけた僕は、黒炎で焼いて押し入った。


 中には、筋肉モリモリの大男が一人でいた。

 もっと手下を侍らせているかと思ったけれど。

 現れた侵入者が僕みたいな子供であることに驚きを隠せないのか、

驚愕と言った表情とリアクションをとった。

 机の上に、瓶が乗っているのが見えた。

 その中には、ぐったりとしたセラフィータの姿があった。


「セラフィを返してもらうよ」


「小童が、何を大口叩いてやがる」

 

 ボスは外がどのような状況にあるのかを知らない。

 つまり、僕がどのように危険な存在であるかまるで理解していない。

 僕はアザゼルの力を引っ込めた。

 瞳が元の薄浅葱色と忘れな草色に戻る。


「ひとひらの言の葉を」


 キーワードを口にする。

 と、僕の周囲が白い光の柱で満たされる。


「能力上昇 ステータスアップ」


 攻撃力、防御力、命中力、敏捷性、上昇の副次効果が現れ、僕は大人と同等かそれ以上の能力を得た。

 ボスが牛刀を振り上げるその前に、高く跳躍した僕は、

素早く両の手に短剣を抜いて握り、顔の前でクロスして構えた。

 そして、短剣を振るい、ボスの頸部を八の字に切り裂いた。

 ボスは何もする暇も与えられずに、シャワーの如く鮮血を迸らせて、

その巨躯を床に伏せた。

 反対側に着地した僕は、両の手の短剣を振るって血糊を落としてから、

ホルダーに戻した。

 決着はあっという間だった。

 僕は、机の上の瓶に走り寄った。


「セラフィ、セラフィ!」


 瓶の中で生気を失ったセラフィータは、瓶にもたれかかるようにして座り込んでいた

 僕の声に反応しない。

 何か毒でも盛られたのか、と心配は逸ったけど、今はこのアジトから抜け出すのが先決だ。

 黒い炎で埋め尽くされたこの建物の寿命はそう長くない。

 僕は黒炎の中を地下から地上まで駆けて抜け出し、ぶっ壊した扉のあった場所まで逃げおおせた。

 外に出て、安堵したのも束の間、背後でアジトが崩れ落ちる派手な音がした。

 燃え尽きて、骨組みだけになった建造物は、面影を残さず、朽ちていた。


「セラフィ!」


 瓶の栓をしていたコルクを抜いて、中からセラフィータを取りだして、両手に寝転ばせた。

 新鮮な空気を吸わせれば、あるいは体調が戻るかもしれない。

 中でどんな不浄な空気にさらされていたとしても。


「う……ナユ、タ……?」


「セラフィ! だいじょうぶ?」


「ん、ん……」


 セラフィータがゆっくり首を起こそうとして、失敗した。

 僕の手の上で横たわったまま、手や足を動かそうとはしているみたいだ。

 僕は少しでも清浄な空気をと、路地を抜け、大通りに出て、公園のバラ園まで走った。

 見たところ、身体に悪いイタズラをされた痕跡はない。得てして悪い人間は、

妖精に邪な興味を抱くものだ。でも、もとのドレスを身に付けていたし、傷もない。

 

 美しく咲く、色とりどりのバラの前にしばらく立っていると、

セラフィータが少しずつ顔色を取り戻し、体調も上向いてきたようだった。

 セラフィータがバラから発せられる精気を吸い取って力に変えているようなそんな感じだった。


「ナユタ……助けに来てくれたのね……来てくれるって信じてたわ」


「うん、うん」


「公園から出て、飛んでたら、後ろからいきなりズタ袋を被せられて…」


「怖かったよね、ごめんね、僕が目を離したせいで」


 僕はセラフィータを頬に押し当てた。

 その頬を、セラフィータがよしよしと撫でてくれる。


「泣かないのよ、もう」


 僕は、知らず、泣いていた。


「うん、うん」


 涙は頬を伝って雫となり、セラフィータの上に落ちた。

 涙の粒は大きく、セラフィータのドレスに染みを作った。

 僕は情けないことに、泣きながら家路に就いた。

 ユリシーズ家の玄関を開けたとき、五時の鐘が鳴った。


「門限ギリギリだったな。どうした。泣きはらした目をして」

 

 玄関ホールで、ナンシーと何故かユーリが待ち構えていた。


「あたしが、妖精さらいにあっちゃったのよ」


 セラフィータは自立できないものの、随分復活していた。


「ほら見たことか」


 ユーリが鼻で笑っている。悔しいけど、僕に弁解の余地はない。


「ナユタのこと、責めないでくれる? ケンカ別れしたあたしが悪かったのよ」


「ほほう。セラフィータがナユタを庇うとは珍しいこともあるものだ」


「こうして、無事助け出してくれたんだし」


「もう二度と、セラフィを危ない目に遭わせたりなんかしない!」


 僕は、まなじりに残った涙を拭い去って、ユーリに誓った。


「まぁ、励め。それより、魔人の力を使ったのか」


「使ったよ」


「無闇矢鱈と使うのは感心出来んな」


「ユーリには関係ない。僕がどう使おうと勝手だ!」


「まぁ、その話はまたの機会にしよう」


 ユーリは夕日をバックに受けながら、薄く笑みを敷いて、その場から去って行った。



 その日のバスタイムは特別仕様だった。

 セラフィータの桶にだけ、バスバブルを割り砕いたものを混ぜてやったんだ。


「すごーい、お湯がゼリー状になったわ。気持ちいーー」


「良かった」


 もしものときのため、セラフィータのご機嫌とりのための最終兵器だった。

 それが、こんなときに役立つだなんて。

 世の中どう組み上がっているか分かんないよね。


「ねぇ、セラフィ。ずっと一緒にいてね」


 僕は、僕の切なる希望を素直に口にした。


「そうねぇ。ナユタがでぃーぷきすをしたくなる女の子が現れるまでは、

一緒にいてあげる」


「そんな日は絶対来ないよ」


 僕は、湯船でクスクス笑った。


「どうかしらね?」


 これは余談なんだけど、闇稼業に手を染めていた、悪質ギルドが壊滅したと、

王国中に知れ渡るのは、翌日の朝のことだった。


 知らないうちに僕、正義執行してた?


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