最終話(人間合格)
「ケーイチ! 何よ、私を宜しくって! まだ死んでないわよ!?」
市子はゆっくり歩いて、マイの墓前に来た。
「タフだな、市子。ただの安全祈願だよ。大声を出すと、手術痕が開くぞ」
「大丈夫よ。私は生きてる。マイのお陰ね」
「口座にあった8億円が仮想通貨に換えられて、戻って来ないのが痛手だがな」
「それも、テロリストの狙いだったのね。でも」
「ああ。市子が買えと言った株式が化けた。今や、製薬会社の大株主だ。配当金だけで年4億円。総資産は100億円。くぅ~! 堪らんちサマランチ! ありがとう、市子」
「うっ!」
市子が地面に踞る。
「市子、大丈夫か? 傷が痛むか?」
「違うの。未来が見えた。私達…………」
「私達? 何だよ。もったいぶらずに教えろよ」
「良い事が起きるから、教えな~い」
「何だよ、全く」
「1つ言えるのは、ケーイチは人間合格よ」
「最近、よく言われるんだよな、それ。そんなに人間不合格に見えてた?」
「ちょっとだけ、ウフフ。但し家族との蟠りを解消したら」
「心の整理が着いたらな。……さて、ガンドローンのトレーニングに戻ろうか」
「うん! 五輪に向けて、警察特殊部隊のケツを蹴らないとね」
市子には見えていた。数年後にケーイチと結婚し、幸せな家庭を築く事を。
――ケーイチは実家に帰る。父親はテロに加担したとして警察病院で余生を消化していた。玄関で呼び鈴を鳴らすと、母親が出てきた。
「ケーイチ、ごめんなさい」
「なぜ謝る? 自分達が気違いだと気付いたか?」
「ケーイチは国のプログラムなの」
「プログラム? どういう意味?」
「ケーイチはね、国の指令で極限状況をどう打破するか実験台されたの。だから、家族はケーイチに厳しく当たった」
「それを信じろと? テロもプログラムか? テロリストからカネを手にしたと聞いたが」
母親は、そっと、ケーイチを抱き寄せる。
「あれは偶発的に。ケーイチのプログラムは10代前の内閣から始まった。それももう終わったの」
「本当なのか、母さん」
「ケーイチ」
「…………お母さん」
親子は込み上げてきた。涙を流し、20年間の溝を埋める。ケーイチは嬉しかった。それは母親も。
「酷い事してごめんね、ケーイチ。よく耐えたわ」
「お母さん」
「もういいのよ。自由を謳歌して」
「うん!」
ケーイチは家族を許した。そして、人間合格となった。