092(くじ引き)
「ありがとう、皆さん。一応病院で検査してください。また取り調べをさせてもらうので、自宅待機をお願いします」
解放された3人は救急車で病院へ運ばれた。
中谷刑事部長は、ゼニア、カナメ、金城を呼ぶ。
「ガンドローンの出番だ。2機で正面突破。1機が裏口からバックアタック。出来るかい?」
「ケーイチも参加させろよ」
「精神を病んでる者には荷が重い。不確定要素だ」
「デコイの対策は?」
「様子を見て、タイミングで行ってくれ。デコイを撒くのにも限界があるだろう」
「その前に、高飛びや人質が殺されたら? 市子が怪我をしてるんだろ?」
「決行は今夜だ。銀行の電力を落とすと同時に突撃してほしい」
「暗視カメラなんて着いてないぞ」
「ないの?」
「ない!」
「参ったな。しかし、手はある」
刻一刻と時間だけが消費されていく。市子の命の灯火が消えようとしている。事件発生から9時間が経った。タイムリミットは残り39時間。対策本部はお手上げだ。
テロリストのボスは小暮総理大臣に電話をかける。桜子の携帯電話で。
「ウロボロス、3つの条件は順調に進捗している」
「1つトレードといこうか」
「トレード?」
「警視庁長官を人質に寄越せば、5人を解放してやる」
「島田警視庁長官だな? すぐに向かわせる。丁度近くに居る」
「島田警視庁長官に50人分の食事を持ってこさせろ」ピッ。
タイムリミット残り38時間。ようやく、島田警視庁長官が対策本部に到着した。
「中谷刑事部長、行ってくる」
「お気をつけて、島田先輩」
島田警視庁長官はデリバリーのピザを抱え、正面玄関から入る。テロリストのボスが外から死角になる所で待っていた。
「ご苦労」
「人質を5人、解放してくれ」
テロリストはくじ引きで解放する人質を決める。島田警視庁長官は市子に気付く。
「君! 血を流してるじゃないか。この子を優先しなさい」
「黙ってろ。くじ引きだ」
人質は誰もが逃げたい。行員だろうと。いつ気紛れで殺されるか分からない。しかし、桜子は残るつもりだ。
1人ずつ、ティッシュペーパーで作られたくじを引いていく。赤色のマーカーが付いていたら、解放される。人質はテロリスト手の中を透視するかのように、ドキドキしながら、目を血走って。
5人の解放される者が決まった。男性客3人と女性行員が2人だ。両手を挙げて、ゆっくりと正面玄関から出ていく。