090(右往左往)
高松は焦っている。偶発的を装い、市子を殺そうと。これなら、咎められる事もない。もう1人の人質見張り役とアイコンタクトする。高松はテロリストのボスに消されないのと、保身のために市子に銃口を向ける。そして、決行する。
「…………あーーー! この女、逃げようとした!」
バン! 市子は腹を撃たれて、踞る。
「ううっ……痛い!」
「俺は悪くないもんねー! この女が逃げようとしたー!」
「何をしている!? 今井市子は生かして帰すんだ! 止血を」
市子の腹からどす黒い血が流れる。肝臓を損傷した。
桜子が市子の腹にハンカチを当てる。
「やめろ、総理大臣の娘」
高松は桜子に銃口を向けた。その高松にテロリストのボスは銃口を向ける。
「タカ、何をやってる? 作戦をパーにするつもりか?」
「い、いえ。ただ、俺の正体がバレてしまいます」
桜子は高松を睨み付ける。高松は気圧され、銃口を背ける。
「おい、ボス! 今井市子に危害は加えない約束だろ!?」
市子を庇うテロリストだ。
「不可抗力だ。それに急所は外れてる」
テロリストのボスは嘘を吐く。肝臓は急所だ。
小暮総理大臣から桜子の携帯電話に着信が来た。テロリストのボスは電話に出る。
「陣頭指揮を執っている、風祭警視から連絡が入った。発砲音がしたようだな」
「風祭…………ちょっとトラブってな」
「死人は出てないだろうな?」
「これから出るかもな」
「24時間は人を殺さない約束だろ?」
「条件を追加する。風祭警視を人質に寄越せば、民間人の人質を3人解放してやる」
「本当か? すぐに風祭警視を送る」
「夜8時、残り40時間だ。最初の3つの条件も滞りなくやれよ」ピッ。
小暮総理大臣は風祭警視を捨て駒にする。プライドが高いだけで、無能な男だと見抜いていた。風祭警視は親に甘やかせて育てられたのだろう。キャリア組だが、警察庁は裏口からだ。
指示を受けた風祭警視は逃げ出したいが、周りにがそれを許さない。渋々と銀行に向かって歩き出す。
テロリストは正面玄関の対人地雷を一時撤去する。
「風祭! その場でパンイチになれ!」
風祭警視はまた渋々とスーツを脱ぎ、パンツ一丁になる。屈辱だ。
テロリストのボスは解放する人質の選定を始める。しかし、市子は選ばれなかった。