009(出会い)
――ケーイチは中学生になった。イジメや柔道のストレスから弱い者に当たり散らす。それを両親が暴力を振るい咎める。ストレスが溜まり、また弱い者に当たる。そんな負のスパイラルに填まっていた。ケーイチは、暴力で支配する両親を何度も刺し殺そうとしたが、実行する勇気がなかった。
ケーイチが通う中学校は隣町の小学校卒業生も加わり、イジメはなくなったかに思えた。入学式は無事終わり、いよいよ、ケーイチの中学校生活一日目。
ケーイチの隣の席は眼鏡を掛けた、ザ・ガリ勉な女の子だ。
「宜しくね、瀬奈ケーイチ君」
「宜しく…………。何で俺の名前を知ってるの?」
「隣町だけど、私も柔道クラブに通ってるのよ。公民館での親善試合で見掛けた事があってね。私はマイ」
「そうなんだ…………マイさん」
「ケーイチ君、イケメンね」
「いきなり、何を言ってるの?」
ケーイチは、芋には解らない光る原石だ。
「徳のある顔よ」
「初めて言われたよ。ありがと」
ケーイチは、リップサービスだと受け止めた。
「それにいち早く気付いたのは私よ」
市子が、ケーイチとマイの間に割って入る。
「市子、おはよー」
「おはよう。ケーイチ」
市子とマイは、にらみ合いをする。女のバトルは怖い。
「皆さん、席に着いてください。ホームルームを始めます」
生徒一同は各々の席に着く。市子はケーイチの真裏の席だ。
「この1年4組を受け持つ、担任の木原です。宜しく」
「宜しくお願いしま〜す!」
ケーイチは教師陣が上手く取り持ってくれたかのような、イジメをする奴らを他のクラスへ分散してくれたと考えた。
生徒一人一人が番号で呼ばれ、自己紹介をする。ケーイチは恐怖心から震え出した。ケーイチの番になると、市子が手を挙げる。
「ケーイチ君は調子が悪いみたいです」
「そうですか。ケーイチ君の自己紹介はまた今度に」
木原先生は次の番号を指名する。市子だ。
「市子、ナイス」
ケーイチは市子に感謝する。
「いいの、いいの」
市子はケーイチの分も含めて、自己紹介をした。ケーイチは凄く助かった。
まだ震えているケーイチにマイが声をかける。
「ケーイチ君、部活は決めた?」
「き、帰宅部だな」