089(聞き覚え)
またテロリストのボスは桜子の携帯電話で小暮総理大臣と話す。
「残り42時間だ。ここで1つ条件を追加する」
「なんだね?」
「瀬奈ケーイチの預金を全額寄越せ」
「良いだろう。瀬奈君には言っておく」
「丁度ここの銀行に預金口座がある」
「しかし、なぜ、瀬奈君なんだい?」
「恨んでるからさ」
「我々も最善を尽くしてる。そろそろ君達の正体を教えてくれないか?」
「ウロボロス…………とでも言っておこうか」ピッ。
そのやり取りを聞いていたテロリストの1人は、女性行員に銃口を突き付けで誘導する。
「何をする気ですか?」
女性行員は怯えている。脚が震えながら。力が入らない。殺されるかもと。
「そこのパソコンの前に座れ」
「は、はい」
「顧客の瀬奈ケーイチの口座から全額引き出せ」
「分かりました」
女性行員はカタカタとパソコンを操り、ケーイチの銀行口座から約8億円を引き出す。
「全て仮想通貨に換えろ」
「はい」
その時だった。「うあー!」と男の唸り声が聞こえた。そして、バン! バン! 客の1人がモップでテロリストに反撃したが、あっさり、撃たれてしまった。
「おとなしくしてないと、命の保証はないからな! 分かったか!?」
「はい!」
人質は一斉に返答する。
「タカ。ヘリコプターの準備はどうか」
テロリストのボスは人質見張り役の男に聞く。
「瀬奈建築から近くの山に移動済みですよ。抜かりありません」
市子はハッと気付いた。タカ…………高松だ。高松の声だと確信した。そうすると、複数の聞き覚えがある声は、小学校の同級生だと考えた。それと瀬奈建築…………ケーイチの親が関わってるのかと。
また市子とテロリストの1人は目が合う。
「お前、俺達の正体に感付いてないだろうな」
「高松?」
「なっ、なぜ分かった!?」
高松はバカだ。あっさりと正体がバレてしまった。
「今井、お前は生かして帰さねえからな」
「やめろ! この子に危害は加えない約束だろ?」
「だって、俺の正体が」
「ボスの命令だ」
市子は、この庇ってくれるテロリストの声も聞き覚えがある。しかし、誰だかは判らなかった。
テロリストは定期的にデコイを撒く。微塵な金属片だ。これにより、電波妨害が出来る。ドローンは使えない。




