081(指定峠制度)
ゼニアがヘッドマウントディスプレイを外す。
「ちょっと休憩な」
「はっ! お疲れ様でした」
ケーイチはゼニアの肩をトントンと叩く。
「ゼニア、本物の天才を連れてきた。今井市子だ」
ゼニアと市子はファーストコンタクトをとる。市子もゼニアを男の子だと勘違いしてしまう。
「ゼニア君は凄腕なのね」
「僕は女だよ」
ゼニアは相変わらず、ボーイッシュでジェンダーレスだ。
「女の子だったのね。ごめん」
「挨拶が済んだところで市子、ガンドローンの対戦をしようか」
「うん。やろやろ」
「まずはエアガン搭載でな」
ケーイチは市子にガンドローンのイロハを叩き込む。何度やっても、ケーイチが勝つ。市子のブランクは長すぎた。
「市子、避けずに突撃するんだ。避けてばかりじゃ、バッテリーを消費するだけだよ」
「うん」
ダダダダダダ――! ケーイチと市子のガンドローンが空中で交錯する。カシャン、カシャン。同時にクラッシュする。
「やるじゃん。やっぱ、市子はセンスある。軌道修正は必要ないな」
ケーイチと市子はヘッドマウントディスプレイを外す。
「疲れた〜」
「市子は病み上がりだ。今日は帰ろうか」
「そうだね。そうするよ」
「ケーイチさん、勝負しましょうよ」
警察特殊部隊の若手、田辺巡査が志願してきた。
「悪いね。明日にしてくれないかな」
「分かりました。明日絶対ですよ」
「ああ。トラブルがなければ」
――ケーイチは市子を自宅に送り届けてから帰ろうとした時、洋介のGTSと見知らぬシビックタイプRが来た。
「ケーイチ、オッスー」
「こんにちは。そちらのタイプRは?」
「近藤だよ」
「瀬奈、久しぶりだな」
ハゲ散らかった近藤が降りてきた。
「じゃあ、帰りますね、洋介さん」
「待った。シルビアはまだ所有してる?」
「ええ、まあ」
「じゃあさ、じゃあさ。今から指定峠に行かない? 南西の5連コーナーは、今日の午後から18時まで指定峠制度の対象だからさ」
「近藤も来るんですか?」
「邪魔はさせないから」
「…………分かりました。たまには走りましょうか」
ケーイチは一旦、自宅マンションに帰る。ドリフトしたい。ドリフトしたい。ケーイチの精神も安定してきた。リビングで適当にレトルトカレーを食べてから、シルビアに乗り換え、出発する。




