079(ババアになっちゃった)
「奇跡だ…………」
市子の担当医は奇跡を目の当たりにした。
「…………すぐにバイタルチェック! ご家族の皆さんを呼んでください。今井市子さんは回復した!」
洋介は親に電話を入れる。
市子は、ケーイチの方を向く。
「ケーイチ…………」
「市子、無理するな。安静にしてろ」
「私は何日眠っていたの? 力が入らない」
「2年だよ」
「2年も? 冗談でしょ? 私は寝て起きただけだよ」
「市子は病院のぼや騒ぎで頭を打って、意識不明だったんだ」
「そんな…………私、いくつになったの?」
「二十歳だよ」
「ババアになっちゃった」
「いやいやいや。ババアって年じゃないだろ」
「冗談。ウフフ」
「なんだよ、アハハ」
市子のバイタルは安定している。医師がペンライトで瞳孔のチェックも問題なし。
市子の母親が来た。
「瀬奈君、ありがとう」
「いえ、俺は何も」
「瀬奈君が市子の入院費を支払ってくれてなかったら、今頃どうなっていたか」
ケーイチが、この2年間で遣った8000万円の内、何割かは市子の医療費だ。
「ありがとね、ケーイチ」
「お、おう」
ケーイチは感謝される事に慣れてない。しかも、命に関わる事。ケーイチはドギマギしてしまう。こういう時に酔っていたい。
「ちょっと皆。ケーイチと二人きりにしてくれない? 皆から一斉に状況を聞くと混乱しそう」
「分かった。先生、母さん、出よう」
洋介が号令をかけて、ケーイチと市子の二人になった。市子は目を細めながら、ケーイチの瞳を見る。
「何から話そうか」
「そうね。ドローンについて」
「ドローンは新たな段階に入った。その名も、ガンドローンだ」
「ガンドローン? なにそれ」
「ドローンに銃を取り付けて撃ち合い、先に地面に着いたら負けってヤツだよ。世界大会が予定されてたけど、警察特殊部隊の切り札として採用され、中止になった」
「面白そう。ケーイチは警察官になったの?」
「警察官の教育係ってところ」
「私は着いていけるかな?」
「市子は俺よりセンスがある。すぐにトップになれるさ」
「ケーイチ…………」
「どうした? どこか痛いか?」
「違う。私、夢を見ていた。マイが自転車に跳ねられる夢。それをケーイチに伝えてた」
「しっかり届いたよ。マイが言ってた。市子はまだこっちに来ちゃダメだって」
「マイ…………」




