074(警察の功罪)
「もしもし、警察ですか?」
「はい、警察です。事件ですか? 事故ですか?」
「3年前に起きた轢き逃げの犯人の情報がタレコミされまして」
「3年前の轢き逃げと言いますと?」
「田中マイ轢き逃げ事件です」
「本当ですか? 貴方のお名前は?」
「瀬奈ケーイチです。マイとは当時、付き合ってました」
「詳しくお聞かせ願えますか?」
「はい。犯人は60代のジイサンで東地区5丁目の赤色の家に住んでます。犯人は自転車で跳ねたみたいです」
「とりあえず、そこへ警官を向かわせます」
「お願いしますよ」
出動要請された警官は自動車警らの隊員2人だ。ベテランと新人のコンビ。サイレンと赤色灯はやらず、ゆっくりとターゲットの家に近付いていく。
赤色の外壁が、パトカーのヘッドライトに照らされ、映し出される。色以外は至って普通の木造平屋だ。
新人はパトカーの外で待機して庭に停めてある自転車などを確認する。ベテランが1人でターゲットの家を訪ね、呼び鈴を鳴らす。
「はいはい、どちら様?」
ガラガラと玄関の引き戸を開ける。吉川イオリが。
「吉川さん、朝早くにすみません。お父さん居るかな?」
「お巡り。父に何の用?」
「交通事故の重要参考人だよ」
「父はまだ寝てる。また今度ね」
「こんな朝早くに、どちら様だ?」
吉川イオリの父親が起きてきた。
「吉川さん、おはようございます。ちょっと署までご同行願えますか」
「に、任意だろ! 断る!」
「なんか都合が悪い? 無職なのに」
吉川はごねる。前科二犯だからだ。しかし、マイを轢き殺した事など、すっかり忘れている。
「免許失効してるから、飲酒運転はしてねえぞ! 何の容疑だ!」
「まあまあ。話は署で」
「親父、行ってこいよ。コイツらのしつこさは、よく分かってるだろ?」
「もう一度言います。署までご同行願えますか?」
「仕方ねえな。行ってやるから、タバコを吸わせろよ?」
吉川は警察署に連行された。そして、厳しい取り調べを受ける。
「何で出頭しなかった!? お前が殺した田中マイさんは、お前と違って未来があったんだよ! 何でお前が死ななかった!?」
新米刑事はノリノリで追い詰める。
「タバコは?」
「タバコがなんだ、殺人鬼! 自白しろ! 自白したら、タバコを吸わしてやる!」
「ナメるなよ、小僧」




