071(総理大臣の娘)
桜子はケーイチに色々質問する。
「何で暴走しないのよ?」
「下りだから」
「妙な規則があるのね」
「下りは危ないから」
「訳が解らない。危ない事に変わりないでしょ?」
ドリフトを知らない者は、まるで文明の利器を目の当たりしたチンパンジーの様だ。言い知れぬものに恐れ、怯えている。
「あのさ、桜子」
「いきなり呼び捨て!? 私の親は、それなりの地位があるのよ?」
「七光りか、桜子には地位がないんだな。危ないか危なくないかは、その道のプロフェッショナルが一番よく知っている。外野がとやかく言うな」
ケーイチはS字でパッシングする。キキー! 金城が滑りながら登ってきたが、ケーイチは察知していた。
「危ない!」
金城はすれ違う手前で徐行する。ケーイチも徐行する。
ケーイチは5連コーナーを抜けた先の直線でスピンターンをする。
「きゃあ! いきなり何!?」
「ここがスタートだから」
ケーイチはギアを1速に入れて、アクセルを吹かし、クラッチをガツンと繋ぐ。2速に入れ、リアタイヤを滑らしながら第1コーナーに入っていく。
「危ないよ! 危ないよ!」
「黙ってろ!」
ケーイチは右にステアリングを切り、絶妙なアクセルコントロールでリアを流して、カウンターを当てる。直線では卍を切って、次のコーナーに入っていく。あれこれ質問してくる桜子を無視して、5連コーナー全てを繋げ、駐車スペースがある直線も卍を切り、滑って魅せた。ケーイチはシルビアを駐車スペースに停める。
「これが、やりたい暴走なのね。危ないけど、ジェットコースターより楽しかったわ」
「ドリフトと呼べ。モータースポーツ全ての基礎だ。俺には考えがある。それは指定された峠にドリフトをやりに来るドライバーから、数千円でも税金を取って、公認の公道レースを出来るようにすれば改善されるだろうよ」
「良い案ね、パパに言ってみる」
「パパはそんなに偉い人なのか?」
「だって、総理大臣なんだもん」
「冗談は顔だけにしてくれ」
「ケーイチだったかな? 私が偽善者じゃないって証明してやるわ」
桜子がプレジデントの後部座席に乗ると、プレジデントはすぐに走り去った。
ケーイチは金城の元へ行く。
「金城さん、なんかスッキリしたんで、帰りますね」
「んじゃ、俺も帰るか。またね」