070(キーパーソン)
ケーイチは両サイドに駐車スペースがある直線で卍を切り、スピンターンをして、また5連コーナーを下っていく。金城は休憩に入った。
ケーイチは数本滑ってから休憩をする。金城のFD3Sの隣にシルビアを停めて。
ケーイチは降りて、シルビアのリアタイヤの山を確認する。金城は外でタバコを吸っていた。
「ケーイチ君は凄いな〜。マシンを手足のように操れる」
「やっぱ、ドリフトはフロントヘビーじゃないと難しくないですか? RXー7はリアが流れやすいから、フロントの剛性を高めて、リアの軽量化をすれば改善できますよ」
「つまり、アンダーステアにするという事だね」
「はい、そうです。俺のシルビアは中古で最初から前置きインタークーラー、タービンが入ってましたから。それにサスペンションもバネレートとショックはフロントが硬く、リアが柔らかいアンダーステアです」
突然、パァー! パァー! とクラクションが聞こえ、1台のプレジデントがケーイチ達の近くに停まり、後部座席から女が降りてきた。年はケーイチと同じくらいだ。
「あなた達! さっきから煩いわよ! それにあんな無茶な飛ばし方して! 危ないじゃない、死にたいの!?」
「なんだコイツ」
金城はバカが来たと思って、FD3Sに乗り、また走りに行く。
「待ちなさい、暴走族! 死にたいの!?」
金城は無視して、5連コーナーを下っていった。
「おい、女。山登りは?」
ケーイチは唐突な質問を投げ掛ける。
「山登りがなんだって言うのよ!?」
「危ないから、やめろと言うなら、毎年、死人を大勢出してる山登りを禁止にしろよ。偽善者」
「なんですって!? 私が偽善者!?」
「制止しようって奴が感情的になってどうする? ドリフトで死人なんて滅多に出ないし、山登りを規制しろよ。だから、偽善者だ」
「でも危ないでしょ」
「ナードか、あんた。体操の鉄棒で最初から離れ技をやる訳じゃない。みんな基礎を学ぶために峠に来るんだよ。無理解に否定する権利はない」
「…………確かに、あなたの言う事には一理ある。それなら、私を乗せて暴走してみなさい、暴走族」
「勇気あるな、あんた。良いだろう。本物のドリフトを魅せてやる」
「私は小暮桜子。あなたの名前は?」
「瀬奈ケーイチ。助手席に乗れ」
ケーイチと桜子はシルビアに乗り、5連コーナーを下る。




