066(勝てない天才)
ケーイチはヘッドマウントディスプレイを外すと、身体が熱い。アドレナリンがドバドバ分泌されている。手が震えているが、気持ちの悪い感じではない。むしろ、心地よい。
「ケーイチ君、お疲れ。今日はツラそうにしてないね」
服部社長が自ら出向いてきた。ケーイチの社員証を持って。
「服部社長、どうもです」
「はい、これが社員証ね」
ケーイチはパスケースに入った社員証を渡される。
「どうだい、ガンドローンの手応えは」
「とても面白いです」
「それは良かった。…………1台ドローンが壊れてるね。ゼニア、まさかいきなり実戦を?」
「僕の提案だよ。瀬奈ケーイチなら基礎的なトレーニングは要らないかと」
「それでも、基礎はやらないと」
服部とゼニアは仲良さげに、意見をぶつけ合う。
「ケーイチ君。今井市子さんは連れてこなかったの?」
服部は市子の病状を知らなかった。
「市子は病院のぼや騒ぎで怪我をして意識不明です」
「そうか、快方に向かうといいね。お大事に。その社員証があれば24時間365日、ここの施設でトレーニングしていいよ」
「ありがとうございます」
「ガンドローン世界大会の第1戦は東京でやろうと、企画している」
「いつ頃に世界大会をやりますか?」
「まだ未定だ」
服部は少し気分を害した。すぐにでも、世界大会を開きたいが、競技人口はまだ少ない。これから大々的にPRやキャンペーンをしなくてはいけない。カネがかかる。世界大会は早くても2年後だ。
「そうですか」
ケーイチは服部の機嫌が悪くなったのを察知して、それ以上は突っ込まなかった。
「私はね、このガンドローンに社運を懸けている。絶対に流行らせると」
「ロボコンの空中版で、とても面白いです。必ず流行ると思います」
「そうかそうか。ケーイチ君は、高橋君の弟子だ。引き寄せの法則を会得していると聞いている。ケーイチ君が必ずと言うなら、間違いないだろう。では」
服部は機嫌を直して社長室に戻っていった。
ケーイチは、ゼニアと一緒にガンドローンのトレーニングをする。ケーイチは何度やっても、ゼニアに僅差で負けてしまう。
「レースの癖が抜けないようだな」
「難しい」
突撃してくるゼニアの猛攻に、ケーイチは耐えられない。見よう見まねで突撃を仕返してみても、先に機体のブレードを破壊されて負けてしまう。