060(訪問者2、3)
父親が居た。ケーイチに柔道の強制レールを敷いたバカだ。
「け、ケーイチ。済まなかった」
「何で謝る? 何について謝る?」
「なんだ、怒ってないなら、瀬奈建築に協力しろ」
「バカかてめえは。そういう態度が癪に障るんだよ」
「何様だ!? ゴホッ、ゴホッ」
「今度は逆ギレか」
ケーイチと血が繋がっていようといまいと、家族はクズばかりだ。
「ケーイチ、よく聞け。父さんは…………末期の肺癌なんだ」
「今度は劇場型詐欺か」
「本当だ。ゴホッ、ゴホッ」
「バチが当たったんだよ、バーカ」
「ケーイチ、5000万円だ。それで手を打とう」
「そんな端金程度、要らねえよ」
「いやいや、お前が父さんに寄越すんだ」
「バカかてめえは。てめえが死んでも、遺産は限定承認するからな」
ケーイチの父親は2000万円で瀬奈建築を畳み、3000万円を医療費に充てるつもりだ。上から目線でカネを無心するバカな父親。「誰のお陰で柔道クラブに通えたのよ!?」など、ケーイチの癪に障る事ばかり吠える。父親は、それで本当にカネが手に入ると思い込んでいた。バカだ。
ケーイチはハッとした。何でコイツらに付き合わなきゃいけないんだと。ケーイチは父親に警告をする。これ以上居座るなら警察を呼ぶと。
父親が出した答えは「呼べるものなら呼んでみろ」と言い放った。
ケーイチはリビングに戻り、携帯電話で警察に通報する。
「もしもし、警察ですか?」
「はい、こちら警察です。事件ですか? 事故ですか?」
「事件です。暴力団に5000万円寄越せって、不当要求されました」
「ただ事ではなさそうですね。あなたのお名前は?」
「瀬奈ケーイチです」
「瀬奈……ケーイチ……さんね。また樋口関連ですか?」
「別の暴力団です。家のドアをドンドン叩いてます」
「緊急性が高いですね。すぐにマル暴を向かわせます」
その時、別の訪問者がケーイチの部屋の前に来る。税務署の者だ。ケーイチの父親に話しかける。
「あなたが、瀬奈ケーイチさん? 良い車を買ったのに、証拠隠滅したの? 駐車場には1台しか停まってないけど」
「誰だ、お前は。俺は瀬奈ケーイチの父親だ」
「お父さん? カネの出所は? 真っ当に働いてから良い車を買いましょうよ。その年で納税の義務も知らないの?」
バキッ! 父親は過放電してしまった。