006(口答え)
次の日は土曜日だ。半日の懲罰(授業)で終わる。
登校中に市子が前を歩いていた。今日は校門から入っていくようだ。ケーイチは、市子に追い付く。
「おはよー」
「おはよう、ケーイチ君。今日は兄がラジコンのヘリコプターを飛ばすよ。見に来る?」
「ホントー? 行く行く」
「今日は体育の授業があるよ。イジメに気を付けて」
「本当に未来が見えるの?」
「自由に、ピンポイントで見れる訳じゃないけどね」
「半分信じるよ」
市子の予知は不安定だ。市子自身も半信半疑。しかし、能力があるのは、本当の事だ。
――体育の授業。ケーイチ達は、校庭でサッカーだ。
小学生のサッカーなど、キーパーは文化部で普段走らない奴。フィールドプレーヤー全員がボールに向かって、突進する。オフサイドもない。
ケーイチは群れから離れて、こぼれ球を狙う。ケーイチはこの戦法でハットトリックを決めた。そして、サッカークラブに所属する連中から妬まれる。ケーイチはサッカーが好きだったが、サッカークラブには所属してない。柔道との両立は出来ないと親に反対されていたのと、ケーイチの兄がサッカークラブのOBからゲームソフトを借りパクして、いざこざを起こしていたからだ。
体育の授業が終わり、国語の授業へ移り変わる時、校庭に出したサッカーボールを仕舞うのは、サッカークラブの人と慣例があったが、あえて仕舞わなかった。
国語の授業が始まってから、サッカークラブに所属する児童が「先生! サッカーボールを片付けてません。瀬奈君が最後まで残ってました」と嘘を吐いた。
「マザコン、今すぐ片付けなさい」
「嫌です」
ケーイチは珍しく、反論した。心に思っていた事が、ポッと出てしまった。
「口答えをするのか?」
バチン! 荻野はケーイチの頬を平手打ちする。
「教育委員会に報告してやる! 最高裁まで戦ってやる!」
ケーイチは、またポロポロと本音が出た。その言葉に、荻野は怖じ気づく。体罰というものが世間でクローズアップされ始めた頃だ。
「あっ、後で片付けなさい。授業を始める」
――授業が終わり、放課後になる。ケーイチは市子の元へ行く。
「ヘリコプターを見せてくれよ」
「私、掃除当番なの。先に私の家に行ってて。ごめん」
「未来を見れるのに、掃除当番を忘れてたのか? 先に行ってるね」