056(MRI)
ケーイチは精神科初診日に無保険だった。これで月8万円の給付金がパーになってしまった。ケーイチは10億円持ってるが、減るカネと増えるカネでは気持ち的に違う。たった8万円でも。
――次の日の朝。ケーイチはあんまり眠れなく、ボーッとしたまま卵かけご飯を食べる。
「…………不味い」
ケーイチは精神の不調から味覚がおかしくなってきた。睡眠導入剤も大して効かなかった。
ケーイチは支度をして、病院へ行く。精神科の待合室は混んでいた。また待たされるのかと、ウンザリした。窓口に行くと、すぐに診察室へ案内される。上田が居た。
「おはようございます、瀬奈さん」
「おはようございます、上田先生」
「睡眠導入剤はどうかな? しっかり眠れました?」
「全然効かないです」
「そうですか。光トポグラフィー検査も追加するかな」
「無保険なんで負担を少なくしてください」
「先に市役所で国民健康保険を発行してもらいますか?」
「いえ。眠れる睡眠薬を先に処方してください」
「そうすると、ちょっと負担が増えますよ」
「構いません」
ケーイチは早く睡眠薬が欲しかった。眠れないのはストレスだ。だからといって、酒に頼る訳にもいかない。
上田はケーイチを検査室へ案内する。MRI検査だ。
上田からMRI担当技師に引き継がれる。
「お名前は、瀬奈ケーイチさんですね? 宜しくお願いします」
「宜しくお願いします」
「それでは、台に仰向けになってください」
MRIの装置は生で見ると、意外とでかく感じるものだ。白いドーナツにストレッチャー。ケーイチは脚が痺れるが、台に寝る。頭をプラスチックの器具で固定され、右手にスイッチを持たされる。気分が悪くなったら、スイッチを押せと言われた。
MRI検査が始まった。ガタン! ガタン! ガタン! と、大きなノイズが聞こえて、ケーイチを乗せた台は徐々にドーナツの中に入っていく。
30分ほどして、MRI検査は終わった。苦痛だ。ケーイチは二度とMRIは御免だと思った。
上田は、ケーイチを次の検査室へ連れていく。光トポグラフィー検査だ。
「MRIは疲れるでしょう」
「ええ、二度と御免です」
「次の検査もちょっとストレスを感じるかもしれませんが、MRIほど大変な検査ではないので」
ケーイチは検査の具体的な内容を知りたかった。
 




