053(精神科)
ケーイチは携帯電話で母親と通話する。ケーイチは内心ビクビクしているが、空強気に任せて話す。
「俺の保険証はどこだ? 取りに行く」
「ないわよ、そんな物。瀬奈建築に協力しなかった罰よ」
「クズだな」ピッ。
ケーイチは考える。市役所まで行って保険証を発行してもらうには、時間がかかるだろう。初診日は10割負担で仕方ないと。しかし、これが甘かった。
ケーイチは総合窓口で説明を受けて、精神科の窓口へ行く。看護師から問診票を渡され、内容に沿って書く。
ケーイチは問診票を窓口に提出して待合室でソーシャルゲームをしながら時間を潰す。いつ呼ばれるか判らない。ストーリー性のあるゲームではなく、コンピューター相手のオセロや将棋、ブロック崩しをする。これなら、急に呼ばれても問題ない。
突然、待合室の後ろから、ワンワンと女性の泣き声が響き渡る。ケーイチはゾーンに入ってないから、泣き声に反応し、恐怖心を覚える。ホンモノは何をするか解らない。
そして、1時間後、ケーイチは中の診察室へ通された。眼鏡を掛けた男性医師が座って待っていた。
「こんにちは。瀬奈……ケーイチさん」
「こんにちは。宜しくお願いします」
「精神科医の上田といいます。宜しくお願いします」
ケーイチは男性医師のネームプレートを確認すると確かに上田と書かれていた。
ケーイチは、上田に不眠症や精神の不調などを打ち明ける。勿論、宝くじの事は隠して。上田は物腰が柔らかく、ケーイチの話を頷きながら聞いてくれる。
しかし、上田は見抜いた。ケーイチが酒に手を出してるのではないかと。
「寝酒してます?」
「まだ18歳ですよ。飲んでません」
“患者は嘘を吐く”――あるドラマのセリフだが、真理を突いてる。ケーイチも嘘を吐いた。
「そうですか。では検査を受けてもらいます」
「どんな検査ですか?」
ケーイチは当然、焦る。酒がバレるかと。
「簡単な知能、心理テストと脳のMRI検査です」
「すぐに睡眠薬を処方してくれないんですか?」
ケーイチは少しホッとして、話を逸らす。
「睡眠導入剤を出しておきます。検査は2日に分けてしましょうか」
「分かりました」
「では検査室へご案内致します」
ケーイチは上田に案内されて、検査室に向かう。歩いて30メートルほどだ。