052(3つの条件)
ケーイチは、トウイチを無視してテレビを観る。お笑い番組だ。下ネタ明星の漫才で笑い声が外に漏れる。ピンポーン。また呼び鈴を鳴らされた。ケーイチは仕方なく、防犯モニターを見る。警察官とトウイチが映っていた。
「お巡りさん、そのガキを家まで送り返してください」
「瀬奈さん、こんばんは。樋口が捕まったよ」
「それは良かった」
「弟君を泊めてあげたら? 家出みたい」
「それなら、尚更、強制送還ね」
「1日だけでも」
「ヘドが出る。俺はな、人徳のない奴、地に足が着いてない奴、先見の明がない奴が嫌いなんだ。帰れ」
ケーイチはまたテレビを観る。
トウイチはパトカーに乗せてもらい、自宅まで連れていかれる。
「お巡りさん、僕も宝くじを当てたい」
「大人になったらね。しかし、最初から夢を見るんじゃなくて、まずは労働をしなさい。地に足が着いてない奴…………お兄さんに嫌われるよ」
「本当の兄弟じゃないんで。カネさえくれれば、それでいいです」
「血が繋がってないの?」
「ええ。親からは、そう聞いてます」
「複雑な家庭なんだね。さあ、家に着いたよ」
「殺される!」
「おばあさんの年金に手を着けたそうだね。謝れば、許してもらえるさ。お巡りさんも一緒に謝ってあげよう」
「ありがとうございます!」
警察官はトウイチを連れ、瀬奈家を訪ねる。母親が出てきた。
「こんばんは。瀬奈さん」
「お巡りさん、すみません。トウイチ、正直に話せば許してあげるから、5万円も何に遣ったの?」
「…………宝くじ」
「バカ! 当たりっこないでしょ」
「でも次男は…………」
「運が良かっただけよ。思い出すだけでも腸煮えくり返る」
「では私はこれで失礼しますね。トウイチ君、働きなさい」
トウイチにはその言葉の意味が解らなかった。
――次の日の朝、ケーイチは警察署に行き、R35GTRのフロントガラスを器物損壊した被疑者をトウイチだと伝え、正式に被害届を出す。それから、病院へ行く。睡眠薬を処方してもらうために。市子が閉じ込められてる総合病院だ。
ケーイチは看護師に声をかける。
「あの〜、夜に眠れない場合は精神科ですよね?」
「おはようございます。今日が初診日という事ですね。保険証を総合窓口へ提示してください」
「保険証…………持ってないです」
「ご家族にご確認ください」
 




