051(HBの終わり)
ケーイチは市子に頼まれ、入院していた病院まで送る。途中で何度かエンストしそうになった。左脚が痺れるからだ。
市子は警察に捜索願いが出ていた。まさか警察は市子がドローンレースに参加していたとは、夢にも思わなかった。盲点だ。
病院の駐車場は今日も混んでいた。ケーイチは空いたスペースにシルビアを停める。
「俺のドローンキットを持っていって。俺は新しいの買うから」
「ありがとう、ケーイチ」
「市子はマトモだ。すぐに出れるさ。ドローンレースチームのワークスに市子も参加できるように打診しといたから」
「面白そうね。じゃ、行ってくる」
「ああ、またな」
市子はドローンキットと必要最小限の荷物を持ち、院内に行く。ホスピタル・ブレイクは終わった。市子は看護師に連れられて閉鎖病棟に戻される。そして、看護師と医師は、市子の厳しい取り調べをする。警察でもないのに。市子は満足だった。どんな厳しい事を言われても、ドローンさえあれば、それで。
ケーイチは家電量販店へ行き、壊れたドローンの修理を頼む。幸い、アフター補償期間内だ。タダで直してくれる。修理期間中にドローンの腕を落とさないように、5000円ほどで携帯電話で操作できる、安いトイドローンを買って帰る。
ケーイチが自宅マンションに着いたのは18時だ。ディーラーから電話があり、R35GTRを1週間以内に直してくれるとの事。
ケーイチは、市子が作り置きしてくれたクリームシチューを食べてから、携帯電話にアプリをインストールして、小型ドローンで遊ぶ。
ピンポーン。ケーイチの部屋の呼び鈴が鳴った。ケーイチは痺れる脚で廊下まで行き、防犯モニターを確認する。弟のトウイチが居た。
「俺に弟は居ない。帰れ」
「車の事、まだ怒ってるの?」
「車…………GTRの事か!?」
ケーイチはR35GTRのフロントガラスを割ったのは、トウイチだと見抜いた。
「ごめん。どうかしてた」
「謝って済む話じゃない。それにお前がどうかしてるのは生まれつきだ」
「カネあんだから、直すだけじゃん」
「謝りに来てるのか、喧嘩を売りに来てるのかハッキリしろ」
「100万円!」
「5階から飛び降りろ、帰れ」
「50万円!」
「働けよ」
「まだ中学生だから」
「だからなんだ。俺は中卒で働いてる」
「カネをくれるまでドアの前で、いつまでも待ってるからね」