050(表彰式)
高松のタイムは1分2秒37。市子は過放電してしまった。タイムは1分30秒。高松は市子に「オタク女、イオリが見てるぞ」と、何度も言ってプレッシャーをかけていた。
その結果を見た服部は、事情を知らずに首を振り、呟く。
「今井市子って子、全然なっとらん。彼女か? 瀬奈ケーイチも大した事ないのかな」
ケーイチは平常心を半分くらい取り戻し、体育館に入る。市子が過放電していた。
「おい、市子、大丈夫か?」
「あんなに練習したのに…………情けないわ」
『それでは、プレーヤー皆様のタイムが出揃ったところで、閉幕セレモニーを開きます。1位から3位の方は表彰台へ』
アナウンスでケーイチは表彰台へ促される。ケーイチが1位だ。2位は金城という男。3位は高松。
ケーイチは優勝トロフィーと500万円の目録を受け取った。ケーイチは病み始めているが、目立つ事に臆しない。しかし、インタビューを受けた時に、また軽いパニック発作が出た。
「瀬奈ケーイチさん、優勝した感想は?」
男性リポーターがケーイチにマイクを向ける。ケーイチはドキドキしながら声を発する。
「最高です」
「今大会、ライバルと目していた方はいますか?」
「今井市子です。彼女と一緒にトレーニングをして、間近で見ています。彼女が本調子なら俺は2位でした」
「おお! 今井市子さんは、そんなに凄い逸材なのですね」
「はい」
「優勝賞金は何に遣いますか?」
「つまらない返しですみません。貯金します」
閉幕セレモニーは終わり、観客やプレーヤーは帰っていく。ローカル放送テレビクルーも撤収の準備をする。
服部は高橋に声をかける。
「高橋君、大会成功おめでとう」
「服部社長、ありがとうございます。スポンサーになっていただき、本当にありがとうございます」
「いやいや、うちも飲料の良い宣伝ができたよ。それと、瀬奈ケーイチ君だけど、うちのワークスに誘っている」
「ケーイチ君を宜しくお願いします。服部飲料ワークスの金城君を抑えての優勝ですから」
「金城君はうちの二軍だよ、ガンドローンの。それより、今井市子だ。本当にできる子なの?」
「市子ちゃんは精神科にかかってますが、腕は本物かと」
「そうか。高橋君がそう言うなら、様子を見てみよう」
ケーイチと市子はシルビアに乗る。
「束の間の自由、楽しかったよ」




