046(過放電した弟)
ケーイチは痺れる脚を庇って、パソコンの前に座る。そして、文字を打ち込む。市子は不思議そうに覗き見る。ケーイチは『高橋ドローンレース大会で優勝をする』と打ち込み、プリントアウトする。その紙をビニールテープで壁の高い位置に貼り付ける。引き寄せの法則の基礎だ。
「壁に貼って意味あるの?」
「市子も引き寄せの法則を学べ。これが意外と効果あるんだ」
「ベッドルームの壁には『家族は人擬き、二十歳になったら絶縁』って貼ってあったね」
「見〜た〜な〜」
「フフフ」
「アハハ…………。さて、市子には手伝ってもらう事がある」
「何?」
10キログラムほどだが、ケーイチは痺れる脚で、市子は非力で、カー用品のネットショップで買ったR32スカイラインGTRのシートを運び、R35GTRのトランクに詰め込む。大会当日に向けて、着々と準備をする。
ケーイチと市子は部屋に帰り、市子の提案で、クリームシチューを作る。
トウイチは見てしまった。やっぱり、ケーイチがこのマンションに居る事を。
「家族が困ってるっていうのに、良い車に乗って! 女とイチャイチャ遊んで歩いて…………!」
トウイチは過放電してしまった。
ケーイチと市子は部屋でドローンのトレーニングをする。やはり、市子のがテクニックがある。
夜になり、ケーイチはリビングでソファーに座り、赤ワインのコーラ割りを飲む。
「優勝は俺のものだ」
「私だって負けないわよ」
「良い試合をしような」
「うん!」
「じゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」
――次の日の朝、日曜日、ドローンレース大会当日。
ケーイチと市子は残り物のクリームシチューを食べる。そして、ドローンキットを持って、意気揚々とGTRに…………GTRに……………………。ケーイチは目を疑う。GTRのフロントガラスが割られていた。過放電したトウイチが石で割った。
「誰だ、やった奴! トウイチだな!? ぶっ殺してやる!」
「落ち着いて、ケーイチ。直せばいいじゃない」
「GTRは違うんだ。そういう事じゃない。侍でいうところの刀だ。しかも、名刀だ。許さねえ」
「とりあえず、シルビアは無事のようね。そっちに荷物を移そ」
ケーイチは携帯電話でディーラーを呼び、GTRは積載車に積まれて修理工場に運ばれた。
ケーイチと市子はシルビアで会場へ向かう。遅刻だ。