045(女のトリック)
ケーイチは棚からワイングラスを取り出してテーブルに置く。コーラと赤ワインを1:1で割り、ゴクッと飲む。
「あ〜…………染みる〜」
「ケーイチ、お帰り」
市子はドローンのカメラ、ファースト・パーソン・ビューでケーイチを確認する。
「よっ」
「本当にお酒を買ってきたの?」
「赤ワインのコーラ割りだ。美味いぞ〜」
「コーラ、好きよね」
「そうかな」
ケーイチは炭酸飲料が好きだ。無自覚に。
ケーイチはワインボトルの半分を飲み、ソファーで横になる。市子は気を利かせ、エアコンの設定温度を上げてからベッドに入る。
――次の日の朝。ケーイチの弟、トウイチがマンションを訪ね、呼び鈴を鳴らす。ケーイチはまだ眠っている。代わりに市子が防犯モニターを見る。
「次男、おはよう。トウイチだよ」
「なんか用?」
「誰だ!?」
「ここの住人よ」
「すみません、部屋を間違えました」
トウイチは5階の部屋すべてのインターホンを鳴らす。トウイチはマンションの住人から怒られて涙目になる。仕方なく、ケーイチの携帯電話に電話をかける。
まだ起きないケーイチに代わって市子が携帯電話の画面を確認する。そこには『クズの一味』と登録されていた。市子はそこでも、イタズラをする。
「もしもし、どちら様?」
「えっ!? 女の声…………電話番号を間違えました、すみません」ピッ。
バカなトウイチにはトリックが見破れなかった。
市子は洗濯機を回し、洗濯物を洗いがてらに納豆ご飯と味噌汁を食べる。
11時頃にようやく、ケーイチが起きる。
「おはよー、今何時?」
「おはよ。11時を回ってるよ」
「電話が鳴ってる夢を見た」
「実際、弟君からかかってきたよ。退治しておいた」
「ありがとう、助かる。シャワー浴びてくる」
ケーイチがシャワーを浴びてる時にまた呼び鈴が鳴った。市子が対応する。またトウイチだ。
「ぼく、何の用?」
「やっぱり、ここなんですよ。瀬奈ケーイチの自宅は。引っ越しました?」
「私が知る訳ないでしょ。帰らないと警察に言うわよ」
「その警察がここだって…………」
「だから、私が知る訳ないでしょ。帰らないとストーカー扱いするわよ?」
「かっ、帰ります!」
ケーイチは何も知らずにシャワールームから出る。