044(悪事)
ケーイチはドローンを着陸させて、ヘッドマウントディスプレイを外す。携帯電話を手に取り、通話する。
「もしもし、高橋さん? どうかしました?」
「大会のホームページにスタートの順番をUPしたよ。確認してみて」
「分かりました」
「ケーイチ君は勝敗関係なしに投資額プラス10パーセントは期待していいよ」
「ありがとうございます」
「礼を言うのはこっちだよ。じゃ、そういう訳で。おやすみ〜」
「おやすみなさい」ピッ。
市子が料理を運んできた。豚のしょうが焼きだ。
「おっ! 良い匂い。美味そうだな」
「すっかり押し掛け女房ね」
「話が変わるけどさ」
「何よ」
「市子と洋介さんは血が繋がってる?」
「多分。それがどうしたの?」
「市子は里子なのに、洋介さんと似てるな〜って」
「でも兄貴は瞳の色が黒だけどね」
「突然変異か」
「謎が解ったところで、さっさと食べよ?」
「そうだな。いただきま〜す」
「いただきます」
市子はやっぱり料理上手だ。分厚い豚肉に生姜を刻んで焼き、甘辛いたれをかける。今井家秘伝のたれだ。
「美味しい?」
「美味い、美味い。凄いな、市子は」
「何言ってんの。女は料理くらい作れないと」
「いや、それだけじゃない。ドローンレースは市子に優勝を持っていかれそう」
「フフフ。明後日が楽しみね」
「あっ! 高橋さんから大会のスタート順がホームページにUPされてるって」
ケーイチはノートパソコンを立ち上げ、テーブルに置いて、高橋ドローンレース大会のホームページを見る。
ケーイチは第1組。市子は最終の10組だ。
「私が最終組? なんかプレッシャーだな〜」
「俺なんて1番手だぞ。ビビってきた。明日はゆっくり休もう」
「怖いけど、楽しみ」
「ご馳走さま。ちょっと出掛ける」
「どこに行くの?」
「酒を買ってくる」
「ええ? まだ18歳だよ、私達」
「眠れないからさ。大会当日のコンディションも調えないと」
「私の睡眠薬を飲ませる訳にはいかないもんね」
「ちょっくら歩いて行ってくるよ」
「腰と脚は大丈夫?」
「歩いてる時は、あんまり痺れないよ」
ケーイチは自宅マンションから歩いて100メートルほど、離れたコンビニに行く。赤ワインの気分だ。
ケーイチは安い赤ワインとコーラを買う。店員に未成年だと、バレなくて良かった。
ケーイチは無事に自宅マンションに帰る。




