033(お隣さんは何者?)
「ケーイチ、腰は大丈夫?」
「また、やっちまった」
「ごめん! 本当にごめん!」
「大丈夫だ。安静にしてれば治るさ。それより、ドローンレース大会だ。エースの俺が出ない訳にはいかない」
市子はケーイチを心配そうに見る。
その頃、病院はてんやわんやだ。市子が脱走したと、ケアマネージャーや看護師、准看護師が総出で病院周辺を探し回る。
「あの重症患者め、どこへ逃げた!?」
「この辺りには居ない。駅前まで捜索範囲を広げよう」
「今井市子はドローンで遊んでた。ドローンが飛んでいたら、そこを重点に」
ケーイチと市子はまだマンションに居た。ケーイチの左足は痺れる。ベッドで左を向き、横になる。市子はヘッドマウントディスプレイを被り、ドローンのトレーニングをする。
ピンポーン。ケーイチの部屋の呼び鈴が鳴った。ケーイチは起き上がる。
「私が出るよ」
「市子は脱走犯だ。部屋の奥に居ろ」
ケーイチは市子を制止させ、防犯モニターを見る。
「隣の部屋の樋口っていいます。あの〜、100万円下さい」
「はい? 何で?」
「宝くじを当てたんでしょ? ちょっとくらい、お隣さんに分けてくれても良くない?」
「働け、雑魚」
「何だと!? 守山に教えるからな」
「お前は誰だ。なぜ、守山を知ってる?」
「覚えてねえのか? 俺は中学生の時に隣のクラスだったんだよ」
「警察に通報しますね。暴力団の下っ端が、不当要求してきたと」
「待て! 待て! 待て!」
「なんか都合でも悪いのかな? もしもし、警察ですか?」
「待てって言ってるだろ! 葉っぱ分けてやるから」
「麻薬の売人が隣の部屋に暮らしてます。すぐに来てください」
樋口はダッシュで逃げる。本当に自室で大麻栽培をしていたからだ。ケーイチは知らなかった。ただのハッタリのつもりが、樋口の挙動を見て確信に変わった。
ケーイチは本当に警察に通報する。
市子は心配そうに、ケーイチの顔を伺う。
「私、大丈夫?」
「市子はホスピタル・ブレイクしただけだ。捕まりはしないから安心しろ」
数分後、ケーイチの自宅マンションの駐車場にパトカーが数台停まった。
「樋口! 令状持ってるぞ! ドアを開けろ!」
警察官の怒号がケーイチと市子にも聞こえてきた。




