031(作戦)
ケーイチは仕方なく、母親からの電話に出る。
「何の用だ、クズ」
「ごめんね」
「今さら謝ったからって、1円もやらねえよ」
「瀬奈建築がピンチなの」
「廃業しろや」
「それには、おカネが要るの」
「働け。次はないからな。次、電話をかけてきたら、また警察に通報するからな」ピッ。
すぐにまた電話がかかってくる。ケーイチは勢いで出る。
「なんだ!? 次はないと言っただろ!」
「ケーイチ、ごめん」
相手は、市子だった。
「市子? ごめんごめん。ナードな親がまた電話してきたと思って」
「そ、そうなの」
「ドローンで困った事でもあるか?」
「追及しないで」
「市子?」
市子は震えていた。
「助けて…………」
「どうしたんだ?」
「…………精神科の閉鎖病棟に入れられちゃった」
「何で? 安定してたじゃん」
「ドローンのトレーニングが母親の癪に障ったのね」
「たったのそれだけで? 文句言ってやる」
「やめて!」
「じゃあ、俺はどうすればいい」
「ドローンレースの大会までに退院できそうになかったら、病院から連れ出して」
「よし、良いだろう。ステルス迷彩服を用意して行くよ」
「バカ」
「まあ、ステルス迷彩服はSFの世界だが、ステルスミッションは得意だ。TVゲームで鍛えたからな」
「バカ」
「良いイメージトレーニングだ。任せろ。いつでも携帯電話の電源を入れておくから」
「うん…………じゃあね」
「おう」ピッ。
ケーイチはドローンのトレーニングを再開する。新聞紙で作った輪をガムテープで壁に貼り付けて、その輪にドローンを通す。間違いやすいのが、スロットルとエレベーターだ。スロットルがドローンを上下に動かす、エレベーターがドローンを前後に動かす意だ。ドローンの肝となる、フライトコントローラーのセッティングは最初から組み込まれている。下手にパソコンでいじるなと取扱説明書に書かれていた。
――それから、一月が経ち、ケーイチは更にドローンとドリフトにのめり込む。高橋の知らせではドローンレースの会場は中学校の体育館になった。ドローンレースのエントリーも受付開始された。ケーイチは早速、エントリーメールを高橋に送る。
ケーイチの脚はもう痺れない。通販でカー用品を買う。R32スカイラインGTRの純正シートだ。人間工学に基づき、設計されていて、座りっぱなしでも疲れにくい。




