030(ヅケ)
ケーイチの母親は警察署で取り調べを受ける。
「瀬奈ヨウコさん、あそこで何してたの? 今日の売上は?」
「売上? 何の話でしょう」
「ふざけるな! 売人! これ以上、ヅケを増やすな! 尿検査だ、尿検査」
婦警が来て、ヨウコをトイレに促す。――結果は、シロだった。また取調室に連れてこられる。
「どうやら、売人本人はヅケをやってないようだね」
「だ〜か〜ら〜! 売人じゃないって。…………あっ! ケーイチね!? あのクソガキ!」
「ケーイチとは?」
「宝くじで10億円を当てた息子です。お巡りさん、私達と手を組んで、ケーイチからカネを巻き上げない?」
「ふざ……けるな!」
その時、弟のトウイチも取り調べを受けていた。
「司法取引するから、勘弁して」
「ほう。どんな情報を持ってるんだい?」
「兄は10億円を違法に手に入れ、やりたい放題ですよ」
「ふむ…………違法とは具体的にどんな手口だい? 額が額だ」
「宝くじです」
「…………それのどこが違法なの?」
「未成年で宝くじを買いました。僕を散々イジメたのに、慰謝料を払おうとしません」
「イジメを証明する客観的証拠は?」
「頭を叩かれました。足を蹴られました」
「所詮ガキだな」
次の日。ケーイチの母親と弟は釈放された。麻薬の売人ではないと証明できた。しかし、母親は書類送検された。ケーイチのプライバシーをウェブに晒したとして。すぐに削除された。
ケーイチは入念にドローンのテクニックを学ぶ。新聞紙で作った輪を通すのは、お手のもの。
ケーイチの部屋の呼び鈴がなった。ケーイチはドローンを着陸させて、ヘッドマウントディスプレイを外す。防犯モニターを見ると、警察官が居た。
「お巡りさん、なんか用?」
「瀬奈ケーイチ君だね? 迷惑メールはもう来ないから、携帯電話の電源を入れても大丈夫だよ」
「本当ですか?」
「君の母親をプライバシー保護法違反で書類送検したから。確かに伝えたからね。それでは失敬」
警察官は署に帰っていった。
ケーイチは恐る恐る携帯電話の電源を入れてみる。詐欺迷惑メールは削除されていた。
「ようやく…………ようやく…………。ストレスフリーになれる」
そして、ケーイチの携帯電話に通話がかかってくる。母親からだ。ケーイチは電話を切る。またかかってくる。




