003(アマチュア無線)
ケーイチは、放課後の教室で市子に感謝の意を述べる。すると、市子は「ケーイチ君、一緒にアマチュア無線技士の資格取らない? 4級なら簡単だから」と言ってきた。市子は淡いグレーの瞳で可愛い女の子だ。
「うちは、貧乏だから無理だよ。ゴメン」
市子は少し黙ってから喋る。
「ケーイチ君の集中力は凄いと思うの。たまに周りの声が聞こえなくなる時があるでしょ。ゾーンよ」
「ぞ、ゾーン? 何それ。確かに周りをシャットアウトする時があるけど」
「ちょっとニュアンスが違うな〜。集中力の事よ。1人で試験を受けるのが何か怖くて。お金は私が出すから…………ねっ?」
市子は手を合わせて頭を下げた。市子はケーイチとはそれなりに仲が良く、女イジメグループと対立している。
「お金を出してくれるのはありがたいけどな。俺は、勉強は嫌いだし。そもそもアマチュア無線って何? 聞いた事はあるけど」
「勉強は簡単よ。合格率99パーセント。アマチュア無線技士になれば、トランシーバーで通話出来るわよ。どう? 凄くない?」
「バブリーなショルダーフォンみたいなヤツ? 電話機が高くない?」
「安いので数千円ね。試験は来年だから、中学生になったら勝負よ。無人ヘリコプターも操縦できるわ」
「無人ヘリ…………。そんなに先の話か。覚えておいたら、一緒に行ってやる」
ケーイチは、アマチュア無線にちょっとだけ興味を持った。ヘリコプターのラジコンを操縦できると思ったからだ。
ケーイチは下校中、ラジコンカーで遊んでる下級生の少年を見付ける。砂利道でオフロードタイプを転がしていた。ケーイチは意を決して話しかける。
「ちょっと貸してよ」
「嫌です」
「壊さねえからよ。大丈夫だ」
「あなたに貸すくらいなら、壊しますよ」
「そうか。じゃあ貸せ」
ケーイチは柔道技の大外刈りで下級生の頭を砂利道に叩き付け、プロポを奪う。
ホイラータイプのプロポだ。左手に持ち、加速減速をする。右手で前輪の舵角を付ける。
キュー! ケーイチはラジコンカーを走らせて遊ぶ。
「おもしれえなあ、アハハ。次はドリフトだ」
キュー! カシャン! キュ、キュ、キュ。奪ったラジコンカーは岩に直撃して動かなくなった。
「あ〜あ。これからって時に壊れやがって。ほらよ」
ケーイチはプロポを地面に叩き付ける。