029(殺しちゃえば)
ケーイチは高橋が主催するドローンレースに500万円を投資する。高橋は当初の目標、3000万円を大幅に超えて、5000万円も集まった。会場も手頃な場所を確保して、ローカル放送の独占生中継もする手筈だ。
高橋は来月からドローンレースのエントリーを受け付けると、公式SNSで発信する。すると、たくさんの反響があり、高橋のSNSには数十人から質問が来た。一つ一つ丁寧に返信する高橋。
ケーイチは部屋でドローンの練習をしていると、呼び鈴が鳴る。ケーイチはドローンを着陸させて、ヘッドマウントディスプレイを外す。
ケーイチは防犯モニターを見ると、母親が居た。
「何の用だ、人擬き。警察を呼ぶからな」
「待って! お父さんが危篤状態なの。ちゃんと電話に出て」
「てめえな…………誰のせいで携帯電話の電源を切ってると思う!? ゴミが死のうと、俺には関係ない。帰れ」
「贈与は要らないの?」
「後で弁護士を向かわせる」
「弁護士だなんて大層な金額じゃないわ」
「じゃあ、要らん。帰れ、クズ」
母親の目的はただ一つ、2000万円の借金返済だ。
「そんな事言わんように」
「…………警察に通報したから。悪は滅びろ」
ケーイチは当然の如く、嘘だと見抜いていた。
「知らないからね、知らないからね」
母親はマンションのエレベーターで1階に降りる。そして、路上駐車してある軽自動車に乗り込む。
「母さん。次男がカネを寄越さねえなら、殺しちゃえばいいじゃん」
「トウイチ、それは…………最終手段よ。10分経ったら、今度はトウイチが訪ねて。可愛い弟のためなら、協力してくれるかもね」
ケーイチの母親と弟は軽自動車の中で待機する。ピピピー! ファー! 往来する車にクラクションを鳴らされる。邪魔だ。
「煩いわね〜」
「母さん、大丈夫?」
コンコン。母親の軽自動車のウインドウをノックされた。白バイ隊員に。
「ちょっと宜しいですか」
「あ、はい。何でしょう?」
「麻薬の売人が、この辺で捌いてるってタレコミがありましてね。この車と情報が合致するんですよ。応援のパトカーが来たら、署までご同行願えますか?」
「麻薬の売人!? 私は違いますよ」
「売人は皆、そう言うんですよ」
「何で決めつけるんだよ!?」
「子供も関わってるのか」




