027(嘘の代償)
平日の夜だ。一般車を除けば、ケーイチ達以外に走りに来てるドライバーは居ない。思いっきりドリフトができる。
ケーイチはアクセルを踏み込み、クラッチを繋げる。まずは右コーナーだ。ギアを2速に入れる。コーナー手前でステアリングを右に切り、クラッチを切ってアクセルを吹かしてクラッチを一気に繋げる。リアタイヤが滑り出した時にカウンターを当てて、アクセルとステアリングでマシンをコントロールする。
ケーイチはコーナー出口でアクセルを緩めてしまった。
「初っぱなにしては、やるじゃん。出口ではビビったか?」
「ええ、ちょっと。次は繋げます」
「マジか。事故るなよ?」
「はい!」
ケーイチはコーナー手前で左にステアリングを切り、一連の動作でマシンを滑らせる。S字コーナーの真ん中でアクセルを抜き、リアを左に振れさせて、アクセルを踏み込む。S字を繋げた。
「スゲーよ、ケーイチ! S字が出来るなんて!」
「洋介さんに鍛えられましたから」
ケーイチは残りのコーナーも滑って見せた。待避スペースに戻ってくると、洋介の車に近付く人影があった。
「洋介さん、車場荒らしかも」
「いや、近藤だよ」
「え、近藤が居たんですか」
「次は、近藤を乗せてやってくれ」
「嫌ですよ。あんなパワハラカマ野郎」
ケーイチはシルビアをスカイラインの隣に停める。洋介が降りたところで車のドアをロックする。
ガチャ、ガチャ。近藤はシルビアのドアを開けようとする。次に運転席側に来て、ウインドウをノックする。
「おい! 降りろ! 俺様がハイパードリフトを見せてやるからよ」
「黙れハゲ、デブ、ブタ、バカ、カス、クズ、ゴミ、間抜け、ナード」
「……てめえな、調子に乗るなよ!?」
ケーイチはウインドウを少し下げて、洋介に言う。
「洋介さん、俺は帰ります。ありがとうございました。おい、カマ野郎。てめえは三輪車で遊んでろ、オナニー野郎が」
「なっ、何だと!?」
ケーイチは峠を下り、街へ戻る。ケーイチの自宅マンションのドアにデカデカと『この住人は10億円を宝くじで当てました。お一人様100万円まで』と書かれたコピー用紙が何枚も貼られていた。家族面をした人擬きの嫌がらせがエスカレートした。
ケーイチは紙を全部剥がして、燃えるゴミに出す。
「幼稚な嫌がらせだな…………限界だ」