026(嘘vs嘘)
20時頃、ケーイチの携帯電話に洋介から着信が来る。
「ケーイチ、オッスー。どこの山へ行こうか」
「近場がいいですね」
「それなら、街から南西の5連コーナーに行くか」
「はい」
「じゃ、先に行ってるから」
「分かりました。すぐに追いかけます」
ケーイチは電話を切り、シルビアのキー、ウォレットチェーン付きの財布、携帯電話をポケットに入れて、マンションの駐車場へ行く。携帯電話の電源をオフにして。
ケーイチはシルビアを運転し、駐車場を出ようとした時に軽自動車が道を塞ぐ。ケーイチは強盗かと思って警察に通報しようとするが、もたつく。軽自動車から降りてきたのは、やっぱり強盗だった。ケーイチはウインドウを下げる。
「家族面した人擬き! 何の用だ!?」
「ケーイチ、お母さんの話をよく聞いて! お父さんが入院したの。生前贈与するから、家まで来て」
ケーイチの母親は嘘を吐く。父親が入院したのは事実だが、生前贈与など、サラサラやるつもりはない。父親の借金を肩代わりさせようと考えていた。
「銀行印を持って家まで来て! お願い!」
「…………分かった。印鑑持って行くから退け」
母親は軽自動車に乗り、帰っていった。
ケーイチはシルビアを運転して、街から南西の5連コーナーの峠に行く。ケーイチは嫌な予感を察知していた。あれだけ、ケーイチをオモチャにしていた母親が贈与…………嘘だと見抜いて、ケーイチも嘘を吐き、ドリフトを楽しもうとしている。
ケーイチは無事に峠に着き、待避スペースにシルビアを停める。黒いR32スカイラインGTS―tタイプMが停まっていた。洋介の車だ。
洋介が車から降りてきた。
「ケーイチ、乗せて」
「はい、どうぞ」
洋介はケーイチのシルビアの助手席に乗り込む。
「腰痛はどうだ? 脚が痺れるって言ってたよな」
「あっ! そういえば、ここ最近は痛くないです」
「自然治癒したか。ささっ、ケーイチのテクが衰えてないかチェックだ」
「はい。行きますよ」
ケーイチはシルビアを運転して、5連コーナーを下っていく。左に曲がり、右に曲がり、S字コーナーがあり、最後に左に曲がる。すると、150メートルほどの直線に入る。
ケーイチはクラッチを切り、ギアを1速に入れ、ステアリングを右に切り、サイドブレーキを引く。スピンターンは難なく出来た。
 




