023(壊れスキル発揮)
その日の授業は終わった。ケーイチは市子にメールを送るために携帯電話を起動させる。また大量の詐欺迷惑メールが1000件入っていた。次の迷惑メールが来る前に文章を入力する。
『こんばんは。ケーイチだ。車の運転免許を取りに来ないの?』
市子は暫く考えてから返信する。
『吉川イオリも来てた?』
『来てたよ。あんなチンピラの女みたいな奴くらい殴れよ。俺が代わりに殴ろうか?』
『やめて。大丈夫よ。私、うつ病になったの』
『うつ病? 本当に大丈夫?』
『ケーイチも気をつけて』
『俺は大丈夫だよ』
『マイが亡くなったって本当?』
『ああ、マジだよ』
『私ね、A型事業所に通ってるの』
『障害者の監獄か。患者につらく当たるとか、良い噂を聞かないな』
『私は、そんな事ないよ』
『市子が女だからだよ』
『関係ある?』
『大いにある。洋介さんは元気? リストラされてから疎遠で』
『兄貴なら元気だよ』
『良かった。宝くじ、本当にありがとな』
『また降ってきたら、教えてあげる』
『市子には伝えておく。ドローン、マルチコプターのトレーニングを受けてる』
『本当に? 私もやりたい』
『俺が車の運転免許を取ったら、会場に連れていってやる』
『楽しみ待ってる。おやすみ』
――ケーイチは難なく、マニュアル車の運転免許を取得した。雪が積もった道の実地試験も何のその。ドリフトで鍛えたフィールでドント・シンクだ。車を初めて運転する奴らからしたら、ケーイチは壊れスキルだった。S字、クランク、縦列駐車も楽勝。苦戦する周りの奴らを嘲笑い、プレッシャーをかけて遊ぶ余裕すらあった。児童、生徒の時にイケイケだった奴らがダサく見えた。所詮はガキのお遊び。大人になれば、地力が真価を発揮する。
ケーイチはS15シルビアのスペックRとR35GTRブラックエディションを買った。シルビアは中古で200万円、GTRは新車で1000万円だ。ケーイチは引き寄せの法則を心得ている。無駄遣いはしない。決まった物しか買わない。まだ9億8000万円以上の残高がある。ニーサでちょっと株を買って損した。
ケーイチはGTRを運転し、市子を連れて、希望のスパイラルのセミナーへ行く。高橋が、ファースト・パーソン・ビューのドローンでタイムアタックをしていた。公民館には数十人のギャラリーが居る。みんな興味津々だ。




