021(マイの死)
「マイが…………死んだ?」
「一昨日、交通事故で。相手は飲酒ひき逃げらしい。葬式に行きなさい」
「…………招待状が来てません」
「はっ? 招待状?」
「招待状が来てません、招待状が来てません」
「ケーイチ君、大丈夫? 招待状って何?」
ケーイチは葬式や通夜に行った事がない。親がセーブしていた。意味は特にない。ケーイチは招待状が来るものだと勘違いしていた。
ケーイチは膝から崩れる。マイとたくさんの思い出がある。ファーストキスやセックス。ケーイチの閉ざされた心を癒し、解き放った。
「マイ…………! どうして!」
ケーイチはボロボロと涙を流す。初めてだ。ケーイチは初めて人のために涙を流す。
「ケーイチ君、今から葬式に行こう」
「えっ…………心の整理をしてから」
「葬式そのものが心の整理だよ」
「分かりました。行きます」
「私の車に着いてきて」
ケーイチは原チャリのエンジンをかけて、高橋のホンダ、レジェンドの後を着いていく。
ケーイチがマイの自宅に来るのは、初めてだ。マイの親はケーイチと付き合うのを反対していた。
高橋は車を降りて、ケーイチを待つ。ケーイチはおどおどしながらバイクを降りる。
「ケーイチ君、早く」
「はい」
マイの母親が待ち構えていた。
「あなたが、瀬奈ね? 中卒のアホの分際で、マイを拐かして。マイにはね、あなたと違って未来があるの。ねえ、マイ」
「田中さん、そうおっしゃらずに」
「イカれてる…………」
マイの母親は、マイの死を直視出来ていない。
「帰ってちょうだい。あなたに焼香をしてもらわなくて結構。高橋さん、お忙しいところすみません」
「あっそ、帰らせてもらう」
ケーイチは原チャリで自宅マンションに帰る。
「バカな親。跳ねた奴を恨めよ。…………俺だって…………悔しいんだよーーー!」
その日から、ケーイチは酒に手を出すようになった。まだ17歳だ。何をどうしたらいいか解らない。とにかく、ストレスを減らそうとした。タバコも吸う。そして、我に帰る。
「結局、中卒のアホだ。ゴミみたいな人生、どう締め括るか」
ケーイチはノートパソコンに『私財は全てユニセフに寄付します。法定相続人も無視して、全てユニセフに寄付します』と打ち込んで、プリントアウトして、テーブルに置く。
 




