019(この子は病気です)
ケーイチと母親はタクシーに乗り、みずほ銀行へ向かう。他の3人は軽自動車でタクシーの後を着いてくる。
数十分かけて銀行に着く。
「運ちゃん、待ってて」
「先に往路の代金をお願いします」
ケーイチは7000円を支払う。母親は1円も出さない。
ケーイチは銀行に入り、窓口へ行く。
「あの〜、宝くじが当たったのですが」
「おはようございます。宝くじの換金ですね。券はお持ちですか?」
「はい」
ケーイチは財布からロト7の券を出す。行員は券の裏を見る。
「住所と氏名をお書きください」
「あ、はい」
ケーイチは手元のボールペンで住所と名前を記入して、また渡す。
「お掛けになってお待ちください」
「はい」
数分後、銀行に、父親、兄、弟が入ってきた。
「母さん、まだかい? 早く札束を拝みたいものだ」
「ケーイチ、俺はコルベットが欲しい。買えよ」
「次男、僕を散々イジメたから、慰謝料1億な」
ケーイチはこのクズどもには1銭も渡すつもりはない。
「瀬奈ケーイチ様。奥の応接室へお越しください。家族の皆様も」
「家族はいいです。俺1人で」
「何を言ってるの〜? 皆で勝ち得た、お金よ」
ケーイチは仕方なく、クズどもと応接室に入る。頭取が居た。
「瀬奈さん、10億円おめでとう」
「じゅ、10億円!? ケーイチ、どういう事?」
バタン! 父親は卒倒してしまった。
「父さん!」
兄と弟が駆け寄る。
「来週にもう一度お越しください。これから券が本物か鑑定致します」
「分かりました」
「お父さんに3億、私に3億、ユウイチとトウイチに3億、ケーイチには1億もあげるわ」
「バ〜カ、カス、クズ、ゴミ。お前らには1円もやらねえよ」
「何を言ってるの〜? ダメよ」
「まあ、待ってください。贈与税を控除するには、当選者ご本人の意向と、ご家族が当選にどのくらい貢献したかによります」
「家族は一切貢献してません。それどころか、足を引っ張るだけで役立たずです」
「け、ケーイチ!? いつもの、ケーイチじゃない。この子は病気です! 財産は家族が管理します」
「帰れよ、クズども。お前らには1円もやらねえよって言っただろ。楽をしようとするな。カネが欲しけりゃ、自分で宝くじを当てろ」
「ああ……ケーイチが壊れてしまった。この子は病気です! 口答えなんてする子じゃなかったのに」




