016(急成長)
ケーイチとマイは一番後ろの席で講義を聴く。「カーネル・サンダースは65歳で起業し、1000回も営業に失敗したが、諦めず、秘伝のスパイスを信じて、世界中にフランチャイズを広める事が出来た」など、成功者の話だ。オーディエンスは沸く。
30分ほどで講義は終わり、マイは、ケーイチを高橋に紹介する。高橋は25歳の若さでセミナーの座長をしている。
「瀬奈ケーイチです。宜しくお願いします」
「私は高橋崇。宜しくね」
「ドローンの研究もしてるんですよね?」
「そうだよ。未来の産業だ。最初は軍需産業だったが、近頃は民間でも開発競争が激化している。後2〜3年もすれば、一家に一台の時代が訪れるだろう」
――それから、ケーイチはほぼ毎日、セミナーに通い、引き寄せの法則を学んでいく。
ケーイチは嬉しかった。希望のスパイラルというセミナーはケーイチを認めてくれる。それから、自分の意見を素直に言えるようになっていく。
ケーイチは仕事中にライン長から声をかけられた。
「ボク、ボク。休憩室まで来て」
「ボク〜? 瀬奈ケーイチって名前があるんだけど。何か用?」
「あっ、ごめん。瀬奈君の今後について話し合いたい」
「分かりました」
ケーイチはライン長に連れられて、休憩室に入る。部長が座っていた。
「部長、瀬奈君を連れてきました」
「君が瀬奈君か。まあ、座って」
「はい」
ケーイチは部長の正面に座る。
「瀬奈君は仕事態度は真面目だし、どうだろう、アルバイトではなく正社員に採用しようと思うのだけど」
「本当ですか? 嬉しいです」
「まあ、18歳になってからの話だけどね」
「ありがとうございます」
「瀬奈君は今何歳?」
「15歳11ヶ月です」
「じゃあ、原チャリの免許を取るといい。仕事に戻っていいよ」
「はい」
ケーイチはワクワクしながら、仕事場に戻る。すると、近藤が突っかかってきた。
「おい、クソガキ! 笑うな!」
「うるせえよ、ハゲ。帽子を取ってみろ、薄毛不細工ハゲ野郎」
「なっ、何だと!?」
近藤は、ケーイチの思わぬ反撃に涙目になる。
「いい大人がメソメソするな、カマ野郎」
近藤は泣きながら、自分の車に閉じ籠る。しかし、誰も後を追いかけて来ない。
ケーイチは変わった。それは悪い方向にも良い方向にも。希望のスパイラルのセミナーによるものだ。
 




