011(宝くじは当たらない)
日曜日の朝、ケーイチは市子の家に行く。アマチュア無線4級の試験だ。事前に過去の問題集を渡されて、ケーイチはパラパラっとめくっていた。法規や工学の問題が4択で出される。
ケーイチと市子は、市子の兄、洋介のR32スカイラインGTS―tタイプMに乗せてもらい、試験会場へ送ってもらう。
「ケーイチ君、うちの会社に入らないか?」
「分かりません。何をしてる会社ですか?」
「自動車部品の工場だよ。誰でも入れて給料もいい。オイシイだろ」
「そうですね。考えておきます。市子も入るか?」
「私はいいよ。田舎で中途半端な規模の会社なんてジメジメしてるわ」
「予知能力で宝くじを当てちゃえば、人生イージーじゃん」
「バカ」
「ケーイチ君は市子の予知能力を信じる?」
「偶然にしては奇妙な感じがするんで、信じますよ」
「ロト6の当たり番号を予知してくれたら、どんなに楽か」
「市子……宝くじの番号は判らないのか?」
「無理ね。数字が降りてくる事はあるけど、当たった試しがないわ」
「そっか」
ケーイチ達は試験会場の市営公民館に着く。帰りはバスだ。
「2人とも。軽くのしてきな」
「はい!」
「昼までには帰るから」
ケーイチは市子に手を引かれ、会場に入ると、試験官のオッサンが待ち構えていた。
「おはよう。若いのにアマチュア無線技士か。カップルかい?」
「いい……」
「そうよ」
ケーイチは否定しようとしたが、市子は肯定した。勝ち気というかなんというか。
「登録してある、今井市子と瀬奈ケーイチです」
「適当に座って待ってなさい。後10分ほどで試験開始だよ」
「分かりました。行こ、ケーイチ」
「お、おう」
――ケーイチ達が試験を受けている時、ケーイチを怪我させたOBの男が自宅を訪ねてきた。謝罪をしに。母親が対応する。
「瀬奈さん、すみませんでした」
OBは頭を下げる。
「いいのよ。どうせ、ケーイチの稽古不足で受身が取れなかったのでしょ。気にする事ないわ。帰りなさい」
「本当にすみませんでした!」
OBは帰っていった。
ケーイチは腰痛と闘いながら、試験を受ける。左の脚が痺れる。
なんとか試験は終わり、ケーイチは痛みから解放された。
「ケーイチ、手応えはどうだった?」
「半々だな。落ちたらごめん」




