一話:東京渋谷区∼前編
双子と言えばよく、性格が似てるとか見た目が似てるとかが有名だと思う。
お互いの考えがなんとなく分かったり、同じことをよく考えていたり。
もし本当に双子がそうなら私は困りはしなかったと思う。
私、双葉椛は双子の妹なわけだけど
私の双子の兄、双葉満影とは見た目も性格も考えも行動も全くの逆なのである。
唯一共通点があるとすれば、お互いブラコンもしくはシスコンな事くらいだと思う。
あと、運動はどちらも得意だが運動神経の寄り方が違う。
満影は高身長と体格を上手く使った力業が優れている、正直喧嘩に回したら勝てる気がしない。
私は小柄なので俊敏性や小回りに優れている、でもあくまでも逃げ足が速いだけで普通と大して変わりはない。
ほとんどが真逆な私達ではあったけれど仲は良かったと私は思っている。
でも、何時頃からだったか満兄…あ、満影がよく怪我をして帰って来るようになった。
まぁ最近だと軽い怪我だけなので、やんちゃしてるのかなと私は思っていた。
切っ掛けは多分中学三年に入って直ぐに、田舎から東京に引っ越した時だと思う。
自慢出来る程特徴もない静かな田舎ではあったが私も満影も故郷は大好きだったので離れるのが凄く悲しかったのは今でも変わらない。
転校先の学校で何かあったのか、それとも放課後渋谷に出かけている時に何かあったのか。
それは私には想像もつかない事なので、放課後試しに渋谷の街に出かけてみた。
渋谷の街には人が多くこういう場が苦手な私にはとてもじゃないけれど辛い。
そんな時だった、白いバンダナを付けた青年に呼び止められた。
「ねぇそこのお嬢さん!一人で何してるのかな?見た感じココには慣れてないみたいだけど道に迷った?」
見るからに悪人面の青年だったので申し訳ないけれど少し嫌悪感を抱いてしまった。
この状況ではどうするべきか、私は悩んだ。
およそ6秒ほど考えて私は返答した。
「いや、あの、人を探していたのですが。どうも人が想像より多くて道に迷ってしまって……一旦家に帰ろうかと思って駅を探していたんです。」
それを聞いた青年は何か企みの笑みを浮かべ私に言った。
「そっか。大変だったね、よかったら道案内しようか!俺駅への近道知ってんだよね!」
と言うと私の手を掴み引っ張って先導する。
その時私は一層不信感を覚えた、振りほどけないほど強く私の手を掴んでいる。
「あ……あの!放してください!」
人気はどんどん少なくなっていき、ついには路地裏まで来てしまった。
嫌な予感と恐怖が私に容赦なく襲い掛かってきている。
ニヤッと微笑んだ青年は私を壁に押し付けこう言った
「お嬢ちゃん、渋谷の今の状況は知っておくべきだったぜ?世間知らずは俺たちのカモだかんなぁ……」
私の嫌な予感は当たってしまった。
この人は学校でも噂になっていた白を象徴としたカラーギャング、『サン』とか言う組織であるらしい。
それにしてもどうしたものか、薄々気づいていたけれど囲まれてしまっている。
コソコソと隠れて付けて来た人が何人も居た。
そう言えば、満影もこんな目にあったりしたのだろうか……
もしかしたら満影はギャングに絡まれて、喧嘩をして帰って来ていたのではないだろうか?
だとしたら、どうして毎日のように渋谷に行っていたのだろうか。
やっぱり私には兄の考えていることが分からない。
それより今は現状の打開を優先しなければ。
普通ならこの現状でたかが一人の女子高校生一人に何も出来ないだろう。
でもそれは『普通』ならの話だ。
ココではもう、こういう事はしたくなかったのだけれど仕方がないと思う。
武力や勢力で負けている相手には知恵で立ち回る、とっても簡単な事だ。
私は演技力や小細工は誰にも負けない自信があるのだ。
「辞めてください!家に帰してください!け…警察呼びますよ!」
普通なら挑発かもしれない、でもこれが私の最善手なのだ。
「あ?そんなことしたら分かってんだろうな?痛い目見るのはあんただぜ?お嬢さん…」
「……」
「怖くて言葉も出ねぇか?か弱いねぇ!」
「……よ」
「あ?」
「痛い目を見るのは貴方たちですよ」
「強がってんじゃねぇよ!クソアマが!」
こんなやりとりをして私は相手の胸倉を掴み、怒って青年が私を怒鳴り殴りかかって来た次の瞬間
青年の服が急に燃え上がる。結構凄い勢いで燃え上がったので、青年は慌てその場に混乱を招いた。
私はその混乱に乗じてその場を逃げ出した。道を走り抜けギャングたちを撒くために時には建物の塀を上ったり、時には家と家の隙間を通ったり。
気付けば本当に、ココが何処か分からない場所に着いていた…廃倉庫が沢山ある港だ。
でも妙に違和感がある。廃倉庫のはずなのに、凄く静かなのに視線を沢山感じる。
そんな時また別の…黒いバンダナを付けた青年が近づいて来ながら声を掛けて来た…
「いやぁ、さっきのは凄かったね!まさかあんな手をねぇ……どうして君、ライターと引火性のスプレーなんて持ってるんだい?」
アレが見えていた。私はあのサンの青年の胸倉を掴んだ時、空いた片方の手で一応隠し持っていた小型の制汗スプレーとライターを使い相手の服を燃やした。どうしてそんな物隠し持っていたかとか、どうして平然とそんなこと出来たのかなんてこの際置いて置く。
あの時、出来るだけ死角からやったつもりだったがアレが見えていたって事は観察眼が鋭く小細工をしている様子を全て見ていたのだろう。
「そんなに警戒しないでくれよ!俺はアイツ等の仲間なんかじゃない!寧ろ敵さ!」
「敵?」
警戒する私に気付きそう彼は言った。
「そう!敵!改めて自己紹介すると、僕は黒を象徴とするカラーギャング『ンレン』の幹部カイと言うものさ!」
「ギャングの幹部。」
「だから警戒しないでくれって!双葉椛ちゃん!」
「っ!?」
ニコっと微笑む彼は私の生徒手帳をヒラヒラと見せびらかしながら私の名前を呼んだ。
掏られたんだ。多分あの悪人面の青年に先導されてる時に
「返してください!窃盗罪で訴えますよ!」
「君がそんな律儀な子だとは思えないけどなぁ。訴える以前に何かしらの小細工で取り返そうとか一瞬でも思っただろ?俺には見え見えさ!そんなの。」
「……何が目的ですか。」
「お!話が早くていいね!俺、アンタのこと気に入ったよ!そうだなぁ、目的を一つ言えば……君、俺たちのチームに入らないか?」
「……はい?」
そう、これが切っ掛けで全ては始まった。
私達双子の一風変わったなんとも言い難いような、なんとも言えない日常の。