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Cursed Blood  作者: Shin
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フィーネの孤独

「仕事帰りかぁ?お二人さんよお?」

 くそめんどくさそうな男どもに囲まれていた。あぁ、鬱陶しいことこの上ない。

「ママのご飯が待ってんだろ?俺たちが上手く使ってやるからよ、持ってるこづかい全部おいていきな」

 盗賊普通にいるじゃねぇか。何が平和だよ。

「これはフィーネたちのお金だよ!あげないよ!」

「まあまあそういうなよ。死にたくねえだろう?」

 男が笑いながら黒い何かを取り出す。ガチ武装。というかあの街並みでまさかの現代武器。

「フィーネ、銃弾は耐えられるのか?」

「らくしょう~♪」

 フィーネがこっそりちいさな牙をのぞかせる。そうですか体強いね。物凄く。

「可愛い嬢ちゃんは俺たちと一緒に楽しいことしようなあ?」

 あーもう早く帰らせろ。あとキモイ。

「その汚い顔こっちに向けんな。穢れる」

「んだっとてめえ!ぶち殺されたいの」

「『燃えろ』」

「っ?!っ、ぅわあああ!?やめろ、あっつい、消えろよ!」

一人の男の右腕が炎に包まれる。

流石に俺は銃弾で死ぬので。

「お、おいどうした!」

「今何したんだよあいつ!?」

「お兄ちゃん言霊使いなんだね!凄い!」

 完全にコーディリアの支配下に入らないように自分の能力は隠しておきたかったが、まあこんなしょうもないところで一回死ぬのはなおよろしくない。

「うっさい、お前も働け。屑どもが動く前に」

「わかった!」

 フィーネの周囲に二本の剣が現れる。

「舐めた真似しやがって!死ねっ!」

「えいっ!」

 銃を構えた男の手にフィーネの剣が突き刺さる。

「うぐぁっ…」

「なんなんだよこいつら…!」

「こんなの勝てるわけないだろ!?こんな“化け物”に!」

 ビクッッ!

 フィーネ動きを止めた。

「…ねえ、だれが“化け物”なの?」

「お、お前らに決まってんだろうが!…そうか、お前ら魔女だな!普通の魔術でこんなのみたことねえ!」

 そういやコーディリアが隠せって言ってたな。こういうことか。そのまんま「魔女狩り」がある、と。…隠すの忘れてた。

「この化け物が!なんでここに来たんだよ!この街から出て行けよ!」

「…ふざけないでよ」

「フィーネ?」

「ふざけないでよ。なんでフィーネのこと皆“化け物”っていうの?別に皆のこといじめたわけじゃないのに。ねえ、なんで?」

 フィーネから、黒い翼が伸びる。紅い瞳と、口元の牙。様子がおかしい?

「違う、魔女じゃない、こいつ、吸血鬼だ…!」

「きゅ、吸血鬼?!嘘だろ…?」

「嫌だ、死にたくない、どっかいけよ!吸血鬼なんて死んじまえよ!お前らに生きる権利なんて無いんだよ!」

 余りの急変化についていけない。魔女と吸血鬼でここまで差があるのか?男達の顔は嫌悪から恐怖へと変わっていた。

「そうやって、そうやってフィーネのパパもママも友達も皆々殺したの!?理由もなく!」

 …っ!

そういう、ことか。

「意味わかんないよ!生きる権利って何!?勝手に来て勝手に殺したくせに!絶対許さない。フィーネたちのこと“化け物”呼ばわりして死ねっていうなら」

 昏く、冷たい声で。

「死んじゃえ」

 刹那、フィーネの周囲がどす黒い霧をまとい、無数の魔法陣と穴が現れる。

「ひっ…やめろ、何もしない、誰にも言わないから殺さないでくれ!」

「うるさい!そんなの嘘に決まってる!どうせまたフィーネを殺しにくるんだ!だったら先にフィーネが殺す!」

 穴から這い出る黒い影の腕、魔法陣から氷の刃と赤い炎。盗賊にもう戦意は欠片もなく、ただ死に怯えていた。

「違う、殺したのは俺たちじゃない、そうだ、悪いのは討伐隊だ!」

 そうさせたのはお前らが殺せと叫んだからなんだろう?自業自得だ。…だがこのまま憎しみに身を委ねたフィーネはさすがに見ていられるものじゃない。

「おい、やめろフィーネ」

「絶対に許さない、死んじゃえ!皆いなくなればいいんだ!」

「おいフィーネ」

「死にたくない、やめてくれ、死ぬのは嫌だ…!」

「いまさら何を言うの!散々殺しておいて!もう遅いの!皆もう帰ってこない!」

「フィーネ!」

「!?何、お兄ちゃんは黙っててよ!関係ないでしょ!!」

「チッ、『消えろ』」

 言霊の力を使い、フィーネの力を消していく。

「なにするの!?…お兄ちゃんまでフィーネが悪いっていうの?フィーネ“もう”いじめられるのは嫌だよ…!」


―――薄暗い夕暮れ時のこと。フィーネが家族と楽しく話していると、外が騒がしくなってきた。

「ちょっと外を見てくるわね」

「うん!」

 私は人間のお友達と一緒に遊んでいた。とっても楽しかった。なのに。

「あ、ああ…嫌!来ないで!私たちは何もしていないはずよ!」

「っせえなぁ、これが仕事なんだよ、わかってくれや」

「やめなさい!そんなことをして何の得があるというんだ!」

「金だよ金。お前らの命はビール何十本だ?ってな」 

パパとママがお外で叫んでる。どうしたんだろ?

「っせめてこの子達だけは!子供の命まで奪う必要はないでしょう!?」

「いやいや、全員殺れって命令だからなぁ。正直、ほとんど無抵抗のゴミ共を殺すだけで山ほど金がもらえるんだ、こんないい話はないよほんとに」

「それな。討伐隊がキツイとかいつの時代だよってな」

 たくさんの男の人たちが笑ってる声がする。見に行ってみよう。

「私も行くよ!」

 ありがとう、私のお友達。

「…え?」

 玄関を開けるとパパの背中から銀色の何かが生えてた。

「何、パパ、どうしたの?」

「フィーネ!逃げ…」

 こっちを向いたママのお腹からも生えちゃった。なんでそんなに苦しそうなの?

「あっははは!ほんと楽な仕事だよ、そら、もう一本!」

「がはっ…」

 パパが赤いモノを吐いた。

「い、嫌、いやああぁぁぁあぁぁあ!?!?」

「あーあ、女の子二人とも泣いちゃったよ可哀そうに」

「泣かせたのお前じゃん。…うっさいな、静かにしろよ」

「やあぁっ!?…っあぁ……ぅあ…」

私も、お友達も、いつも仲良くしてくれるおばさんも、お菓子をくれたお兄さんも、みんなみんな、兵隊さんに殺されてた。

「痛い…皆、いなくなっちゃやだよ…返事してよ、パパ、ママ…」

「おいこいつまだ生きてんぞ。腹にぶっささてんのに」

「そんなの“化け物”なんだから当たり前だろ、殺せ殺せ」

 どすっ。ぐさっ。私の身体からいっぱい剣が伸びてた。

「あ…ああ……」

「まだ息あんのかよ。もう刺すとこねえぞ?」

「ほっとけ、そのうち死ぬだろ。それよりあっちにもう一人見つけたらしいぜ」

「まじか!やれやれ、報酬がまってるぞ!」



 …もう行ったかな。私はもう動けないけど。

「パパ…ママ……皆死んじゃいやだよ、フィーネを一人にしないでよ、寂しいよ…」

 暗い、冷たい、寒い、寂しい、怖い……

 何も見えない、血の匂いしかわからない、誰の声もしない。

 私たちは何もしてないのにーーー

 

今にも泣きだしそうな顔でこちらを見る。怒り、恐怖、怯え、悲しみ、憎しみ。

「一人はもう嫌なの…!」

「殺しても意味がない。何より、無抵抗のそいつらを殺してしまったらお前の両親達を殺した奴らと同じだぞ」

「あいつらと一緒にしないでよ!何も知らないくせに!」

「じゃあお前は何を知っている?なぜ殺されたかも理解できず、今殺すことがどういうことかも理解していないお前は?」

「だって……だってもういじめられるのは嫌だよ!あんな怖い思いも寂しい思いもしたくない!そうだ、お兄ちゃんの血を眷属になるまで飲めばもうフィーネから離れられないよね。あとでリアも眷属にすればフィーネは何もなくさないですむ…!」

「おいやめろ」

 今は、コーディリアが吸血を止めた理由が何となくわかる。

「うごかないでよ……吸えないよ……」

恐らく吸血行為は禁忌なのだろう。そして、犯せば管理局というのが罰しにくる。それは命を保証できるものではないはずだ。

「やめろって」

「うるさい!なくしたくない!離したくない!もう一人は嫌!」

「『黙れ』」

「!?」

 一度だけ黙らせる。力ずくで止めても同じだから、説得しないといけない。

「お前、コーディリアのこと忘れたのか?」

「忘れてないよ!だから後で眷属にしてフィーネのものにしようと!」

「違う、あいつがお前に何をしたかだよ」

「……どういうこと?」

「俺は関わって無いから何も知らんがな、どうせ一人だったお前を助けて一緒に暮らしてるんだろう?そんなお人よしのお嬢様が今更お前から離れると思うか?お前がいじめられて黙ってると思うか?」

「……」


―――良かった、一人でも生きててくれて……!!―――


「ずっと一緒にいたんだろうが、そいつすら信じられなくてどうすんだよ」


―――フィーネっていうの?これからよろしくね!私が守ってあげるからね―――


「じゃあ……じゃあお兄ちゃんは?ちょっとしか過ごしてないし、フィーネの力をみたからフィーネのこと怖がったりいじめたりするんでしょ?」

「誰がお前みたいなガキを怖がんだよ。」

「じゃあフィーネのこと化け物だっていじめたりしないの?」

「ただの吸血鬼だろうが。子供をいじめる趣味はない」

「血を、吸わなくても、離れない?」

「元の世界に帰る方法もないのにどこに行くんだよ」

「帰る方法が……見つ…かったら、離れ、ちゃう、の?」

「コーディリアは秘密をしっている俺を追い出したりはしないだろうな」

「フィーネは…っ……何も…なくさないの……?」

「少なくとも二人はな」


―――何があってもわたしは貴方の傍にいるからね―――


「っ…ぅあ……ぁああああっっ!!」

夕暮れの路地裏に、少女の泣き声が響き渡る。腕の中の涙は、温かいような気がした。



「遅かったじゃない、心配し…ねぇ、どういうこと?」

近づいただけでフィーネが力を使ったことが分かったらしい。

背中で寝ているのを起こさないように小声で、しかし激しく問い詰めてきた。

「帰りしに盗賊に襲われてな。撃退したはいいが、この通り疲れて寝てる。けがはない。」

「そういうことじゃないわ。…この子、どうして力を使ったの?というか貴方フィーネのあの姿を見て…」

「あれなら余程強いやつに襲われない限りは安心だな」

「……そう。なら詳しいことは聞かないでおくわ。」

 大体なにがあったかは予想できたらしい。どこか安心したような声だった。

「ほら、宿決まったんだろ?道わからないんだから早く案内しろ」

「わかったわようるさいわね。…実際に見たのならもうわかったと思うけれど、絶対にフィーネのことは口外しないで頂戴。それと、フィーネを泣かすような真似したら許さないから」

「へいへい」

フィーネが受け入れてもらえて嬉しかったのだろう。淡々と歩く

コーディリアの口元は笑みを隠せないようだった。

「この二人の関係でなにを心配することがあるんだよ全く」

「何か言った!?」

「何にもないですよっと」

「……んぅ…」

幸せそうな寝顔は夕日で紅く染まっていた。


第一部完結です。読んでくれた人ありがとう。

ここからはコーディリア篇になるかと思います。

乞うご期待。

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