新たな日常
「で、勝手に連れてきたと?」
「だって良い匂いしたんだもん、いいでしょ?いいよね!」
「ダメよ」
「ええー・・・」
目が覚めると、金髪が銀髪に説教されていた。どうやら、俺は餌にでもされるらしい。
「はぁ・・あら、目が覚めたようね。元気かしら?・・・といってもその状態じゃ元気も何もないとは思うけれど。念のために拘束させてもらったわ」
確かに、手足を鎖で巻かれて転がされているのだから元気も何もない。
「見ての通りだ。で、せめて死ぬ前に何が起こっているのか説明くらいしてほしいんだが?」
「随分と余裕なのね、これから死ぬかもしれないのに」
「・・・」
「まあいいわ。安心なさい、しばらくは貴方は死ぬような目には合わないから」
「・・・どういうことだ?さっきそこの金髪が『良い匂い』とか言うからてっきり喰われるものと思ったんだが?」
「お兄ちゃんを食べたりなんかしないよ!私はお兄ちゃんの血がほしいだけだよ!」
「フィーネ!!」
ち?・・・血?
「・・・怖がらないということは貴方の世界では吸血鬼の存在はあまり浸透していないみたいね。」
「フィーネが吸血鬼だと何かいけないの?」
「・・・ううん、そんなことは無いわ。今まで吸血したいというのはあったけど、誘拐までしたのは貴方が初めてよ。貴方に執着する理由は私もよくわからないわ」
「フィーネ吸血鬼だから血がすきなの!でもリアはそのこと隠しなさいっていうの。今度はいいでしょ、リア!」
「ダメ、我慢しなさい。今人間に手を出したらそこら中の管理局の奴らが襲ってくるわよ?・・・気づかれていなければいいのだけれど」
「ええー、あの人たちこわい・・・」
「で?俺はどうすればいいんだ?どうせ帰してはくれないんだろう?」
「うーん、そうねぇ。確かに色々知っちゃった以上そう簡単に帰すわけにはいかないし」
「ほんとに帰れないのかよ」
金髪が吸血鬼というのは漏れちゃいけない情報だったらしい。
「まあそう言わないで。ちょうどいいわ、三食ベッド付きで住ませてあげる」
「は?」
「まあこちらに非があるのは確かなようだしね。といってもタダじゃないわよ」
「なんだ、腕か足でも差し出せばいいのか?」
「いらないわよ貴方の体なんて」
「えぇーー?くれるんだからもらおうよぅ!」
「フィーネは黙ってなさい」
「むうぅぅぅ」
「ねぇ貴方、ここにきて最初の感想は何だったの?」
「最初の感想?まぁ、暗くて雑草だらけでジメジメしたとこだと」
「貴方雇い主の家に言いたい放題言ってくれるわね。まあその通りよ。狭いといっても流石に二人じゃ手入れしきれない広さだもの。普段綺麗にしているのは屋敷の中くらいのものよ。そこで、よ。貴方にはこの定域を手入れしてほしいの」
「は?定域?というか屋敷は広いだろう」
「ああ、そういえば当たり前だけど知らないのね。この屋敷とここ一帯で一つの世界なの。それが定域。他の世界も同じで、まあ島みたいなものよ。貴方の元いた世界も一つの定域よ。といってもこことは比べ物にならないくらい大きくて安定した定域だけどね」
「つまりここはこの屋敷とその周りだけの小さい世界で、そこの掃除をしろ、ってことか」
「そういうこと。理解が早くて助かるわ」
「受け入れるしかないからな。理解も何もない」
「で、やってくれるわよね?」
「無い選択肢から何を選べと?」
「了承とみなすわね。拘束を解いてあげる」
銀髪が一瞥すると鎖が音を立てて砕け散った。
・・・見ただけだぞおい。
「あ、何となく察してたと思うけれど、私魔術も使えるのよ」
そんな気はしてたがな。そもそもあの門魔法感凄かったし。
「んっっあぁ、やっと体を動かせる」
「ごめんなさいね。これからはちゃんとこの定域の一員として扱うから」
「それはどうも。ところで銀髪、まだお前の名前を聞いてないんだが」
「貴方ねぇ、一応私は雇い主・・・まあいいわ。私はジルヴィア・コーディリアよ。で、この子がフィーネ。」
「フィーネだよ、よろしくね!」
「そうか。まあよろしく頼むよ、二人とも」
「はいはい。よろしくね、召使さん」
「さて、それでは早速。おいコーディリア。腹が減ったが食ベ物はどこにある」
「貴方私を舐めてると潰すわよ?・・・食材なら調理場にあるわよ。そうね、記念すべき初仕事は今日の夕食を作ってもらいましょうか。いいわよね、フィーネ?」
「私はごはんよりお兄ちゃんの」
「フィーネ?」
「ごめんなさい、フィーネちゃんとごはん食べる・・・」
普段どんな接し方したらそうなるんだよ。
「さてと」
「あら?貴方料理得意なの?」
「まあそれなりにはな」
自分の飯は自分で作ってたからな。
「なら心配しなくてもいいわね。期待してるわよ?」
「勝手にしてろ。文句は言うなよ」
「言わないわよ、作ってもらってるんだから」
「うわぁ・・・想像以上ね。貴方凄く料理上手じゃない」
「すごい!おいしそうだね!」
「食ってから言え」
通された調理場はとても広く、見つけた材料でそれなりの料理もすることができた。
「照れなくてもいいのに。まあ味の方でもお手並み拝見といきましょうか」
―――食事後。
「ありがとう。凄くおいしかったわ。」
「おいしかった!いっぱい食べちゃった!」
それは良かった。
「というわけで貴方の仕事に食事係を追加します」
「不味く作ればよかった。というかまだ仕事じゃなかったのかよ」
「冗談のつもりで言ったら本当にできちゃったのよ。それで、この後はお風呂にでも入ってもらって、あとは部屋で休んでもらって結構よ」
「それは助かる」
「場所はフィーネに案内させるわ」
「こっちだよ、お兄ちゃん!」
「私が貴方の吸血を感知できること、忘れないでね?」
「はーい・・・」
目の前で拗ねて返事する少女が吸血鬼。あの銀髪が魔術師。信じがたいがまあ従うしかないのだろうな。
「お兄ちゃん、こっちがお風呂。で、この上の階の一番右がお兄ちゃんの部屋だよ」
「わかった。ありがとう、もう戻っていいぞ」
「うん!ばいばーい!・・・逃げちゃ、ダメだよ?」
「――わかったよ」
年端もいかない少女とは思えないほど暗い目をする。まあ、色々調べたい事もあるが今日は流石に疲れた。あのお嬢様の言う通りとっとと寝るか。
しかし部屋も風呂も広すぎんだろ。
「定域tで短時間の接続反応?」
「はい。ただ、何があったかまでは確認できていません」
「そうか。周辺での消失物、行方不明者を探せ。尻尾を見つけ次第捕らえろ。場合によっては殺しても構わん」
「了解しました」
・・・異端者は、存在してはならない。消え去るべきだ。それが最大多数の幸福なのだから。