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Cursed Blood  作者: Shin
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蹂躙のその先

 重く低い轟音が響く。正面の扉が破壊されたらしい。館のホールで物陰に潜み、なんとかして勝機を伺おうとする。禁術、魔術破壊を付与された重装兵数名に、それをかけた本人であろう大男。鎧で顔は見えないけど、おそらくは余裕の表情を浮かべているに違いない。


「さあ出て来い小娘!罠の小細工は見飽きたぞ。そろそろ狩りの終幕だ、じっくりなぶり殺してやろう!」


 まだ見つかってはいないのか、ホールの中心から動こうとしない。大男を囲むように兵士が周りで身構えている。一言も言葉らしい言葉を発しない彼らが、不気味で仕方ない。まるで人形のようだ。


「ねえリア、どうしよう…。フィーネ達、あの人に殺されちゃうの?」


 不安げに呟くフィーネに、後ろ向きな気持ちを振り払う。ここで私が弱気になるのはいけない。大丈夫、絶対になんとかなる。今までもそうだったし、今もそうだ。何より、私はこの場所の、彼女の主なのだから。


「どこかに、どこかに綻びがあるはず。そこを突ければ或いは…」


 こんなに強大な魔術で、しかもそれは他人から奪ったもの。仕組みを理解していないかもしれないし、何処か弱い要素があるのかもしれない。兎に角、完璧ではないはずのそれを打ち破るしか、生き残る道はない。


「…ふん。鼠が。動く気はない、という訳なのだな。宜しい、ならばその隠れ家ごと粉砕してくれよう!」


 言うと、兵士が動き出す。それらは、その腕力でもって一つ一つ壁や床、置物、階段の悉くを破壊していく。偶然にも私達の反対側から始まったそれは、大男の背中を作り出していた。自分達の居場所を蹂躙される屈辱は、これで二度目。内から、ふつふつと怒りが沸き立ってくるが、今度は。今度こそは、逃げない、負けない、その暴力に屈してなるものか。


「…フィーネ。たぶん最後のチャンスよ。あと一人兵士が奥を向いたら、その瞬間に全力であの大男に攻撃して。何でもいいわ、とにかく強いものなら。全身の禁術を全部消し炭にするくらいの」

「うん。リアは?」

「私も同じ。あいつがこれでダメージも無ければ、なす術もないもの。隠れててもいずれ見つかるし、文字通り最後の一撃よ」


 フィーネは緊張した顔で頷く。その表情は、不安に満ち満ちていたが、それも一瞬の事。すぐに真剣な面持ちで狙いを定める。この子は、私よりよっぽど強いのかもしれない。その姿に感化されたのか、自然と緊張が和らいでいく。心配ない、やれる。

 

 と、最後の兵士か背を向けた。これで、全兵士が反対側の階段奥へ向かった。


「今よ」


 刹那、フィーネが瞳をより一層紅く輝かせる。私も、全魔力を込めてスペルを紡ぐ。かたや、宵闇の如く深い黒の、膨大な熱源たる鋭い刃と巨大な焔。翼を広げ、大男を取り囲むように展開し、圧倒的な魔力が覆い尽くす。かたや、透き通る水色の、極低音の氷塊の煌めく奔流。まるで霧のように空間を包んだそれは、その一つ一つの粒が小さく鋭い、しかし強烈な力を纏った槍の穂先。その渦がすべて、大男に向けて放出される。


「フィーネの居場所を、奪わないで‼」

「rigescunt indutae De hastam nebula,lte in corpus!!」


 その全てが大男に降り注ぐ。その膨大な力は、兵士が振り向くよりも早くその鎧ごと切り裂き、焼き尽くし、凍らせる。その余りの魔力に、反応すら出来ず、魔術破壊の強度をも上回り。その身は原型を留めず、血を噴き出し痛みを感じる暇さえ無いほど。

 

 の、はずだった。持ち得る全ての力を出し切り、力無くその場に腰を落とした私達が見たのは、無残な人だったモノではなく、鉄面から歪んだ口元を見せる、五体満足の男だった。鎧の隙間から僅かに血を流しているものの、それだけ。焼け焦げた鎧が、魔術破壊を微かに破ったことを示しているが、それは同時に、あの鎧もまた強大な防御力を持っていることをも示していた。私達の全力は、禁術を破り得ることの証明と、破った先の絶望的な力を見せただけであった。


「嘘…でしょ」

「もう嫌…」


 そして、兵士がこちらを向く。ゆっくり、ゆっくりと近付いてくる。もう私達に、できる術はない。強烈な魔力の衝突後の、煙たい匂いを嗅ぎながら、大男の哄笑を聞く。


「ふふ…ははははは‼見事、見事な魔術であったぞ!この鎧にまで届く攻撃なぞ、魔術破壊を手に入れてからは初めてというものだ!よくぞ楽しませてくれた。聞け!素晴らしき哀れな小娘よ!」


 勝利を確信した大男は、ゆっくりと歩み寄る兵士には目もくれず、冥土の土産とばかりに語る。


「我が名はヴェルナス。強固な物理防壁の鎧に、魔術破壊の禁術を纏う、『死なずのヴェルナス』よ!小娘よ、感涙に咽ぶがよい、死ぬ間際に我が口上を聞けるのだからな‼」


 ホール中に響き渡るヴェルナスという名の男の笑い声に、耳を塞ぎたくなる。目を背けたくなる。逃げ出したくなる。しかし、その全てが全て叶うことはない。3人の重装兵がその槍を掲げ、こちらへ向け、その切っ先を。


 振り下ろす。

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