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Cursed Blood  作者: Shin
17/21

崩れた均衡

「ッッ?!」


 夜。平和に食事を終え、何事も無く朝を迎えるはずだった。だがそれは幸か不幸か、何者かの侵入を告げるけたたましいアラートで打ち消された。事前に、結界への大勢の侵入を探知すると鳴るようにしておいたものだ。それが働いたことを良かったと思うべきか、ついに来てしまったことを嘆くべきか。どのみち、じっとしている暇はないことだけは間違いない。階下でも、リアとフィーネがバタバタしているのが容易に想像できる。早く合流しなければ。


「エリク!この音って」

「想像どおりだ。場所はこの館の正門と裏の二箇所だと思う。戦力差がわからないが、こちらをどう分けるべきか…」


 どう分かれるか迷っている間にも、敵はこちらへ向けて進んでくる。多少なりとも罠で数が減っていればいいが、正直時間稼ぎすらあまり期待できない。ないよりはマシ、だと信じたいところだ。


「お兄ちゃん!!」


 リアと話していると、フィーネもこちらへと駆け寄ってきた。その表情には、焦りと恐怖が浮かんでいたが、それでも随分と落ち着いているように思う。色々なことを通して、多少なりとも成長したのかもしれない。


「フィーネ!良かった、無事なのね。いい?今回は相手もきっと本気で殺しに来るわ。何があっても、自分の命を第一にして動くのよ」

「―――わかった!」


 元気に、しかし真剣に頷くフィーネに、少し焦っていた頭が落ち着いていく。冷静に、的確に。今、何をすればいい?そう遠くない場所から響く轟音に、緊張感が張り詰める。


「ねえエリク。どっちが本命だと思う?」


 フィーネを撫でながら、リアが呟く。ニ隊に分けたのなら、どちらかは囮あるいは陽動であることは明白だ。それにすぐ気がつくあたりリアもまだ頭は回っているようだ。敵のトップの情報がない以上、定石だと思われるやり方から判断せざるを得ない。


「…よし。間違ってたらその時だ。リアとフィーネは正面を、俺は裏を叩く。時間をかけたら不利になるのはこっちだ。迅速に、的確に敵の頭を潰そう。数と時はあちらだが、地の利はこちらにある」

「一人で大丈夫…なんでしょうねきっと。その本当の力、私に見せて頂戴ね?」


 それは多少の強がりをも含んではいたが、それでも自信たっぷりに、不敵な笑みとともに頷く。


「任せとけ」



 

 木の上に身を紛らわせ、少し先の男達を見据える。怒声、罵声、そういった汚い声が響き渡る。敵集団は数十人といったところ。一人で相手取るには余りにも多すぎる人数だが、それらは数々のトラップに気を取られている。数を減らすとまでいかずとも、立派な戦力にはなりそうだ。


「奴らは何処にいる!探せ!」

「目標は3人組だ!」

「急げ!敵が立て直す前に潰しきれ!!」


 剣だ槍だと武装した集団が、館の庭を荒らして進む。冷静に対処しなければという理性とは裏腹に、この無礼極まりない侵入者達へと怒りが湧いている自分がいる。ああ、俺達の箱庭をよくもそんな不躾に、乱暴に、踏み荒らしていくのか。眼下まで迫った害虫共へ、強く感情を込めて、疾く立ち去れと言わんばかりに、無慈悲な鉄槌を下す。


「『刃』」


 柄も無い剥き出しの刃が、一人の躰を頭から貫く。悲鳴すら上げられずに、鮮血を噴き出して倒れる姿を横目に見ながら、口を動かし続ける。


「『刃』『刃』『刃』『刃』…!」


 唐突に倒れゆく仲間と、どこからともなく湧いては貫く刃と血飛沫に、ようやく敵が異変を察知した。辺りを見回し、一周も見切らないうちにまた一人。一瞬たりとも無駄にしないよう言霊を使い続ける。


 「気付くのが遅いんだよ…!」


 しかし、思わず目の前に夢中になってしまったのはこちらも同じだった。唐突な背後からの風切り音に身体を逸らすも、左腕を鋭い痛みが襲う。


「いッ…!!矢だと…。どこから!」


 振り向くと、同じような規模の集団、ただし弓矢隊がこちらを向いて構えていた。攻撃が止み、真下の敵も構えだす。自分にに刺さるのは、敵意、殺意、いや、もっと冷たくドス黒い感情か。この程度の窮地、抜け出せなくてなにが言霊使いか。


「…上等だ。纏めて叩き潰してやる」


 幾本もの矢と、怒声が突き刺さる中、単騎その中心に踊り出た。

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