魔法の罠、ただの罠
「ゴーレムにオートマタ、落石・落とし穴に自動銃…。精度こそ低いけれど、よくこれだけ準備出来たわね」
ざっと防衛装置のチェックをして、リアはその種類と量に驚いていた。
書庫漁りまでしてずっと作ってたんだから当然だ。
複雑すぎるものを作れない以上、数で勝負するしかない。
3人以外の戦力が重要だということは言うまでもない。
「ところで、前に言っていた魔力源は何処にあるの?これだけの装置を動かすなら相当な魔力が」
「きゃぁぁぁ?!」
ゆったりとした空気が一気に冷たく張り詰める。
まさか、もう来たというのか。
リアと顔を見合わせ、すぐに駆け出す。
「フィーネ!!」
今ここで彼女を失う訳には行かない…!
「何よこれ」「知らん」
「助けてよぅ…」
焦燥感と共に駆けつけた場所には、見事に罠にかかったフィーネがいた。
罠といっても、足を蔦で巻きとるようなごく原始的なトラップである。
教科書通りのかかり方をしたフィーネは、空高く、具体的には木の1番上から吊るされている。
「なんか草が少ない場所があって、気になって入ったら、急に上に引っ張られて、それで…」
半泣きでフィーネが揺れている。シュールだ。
わざわざ引っかかりに行く奴がいるかよ。
これついでに作っただけなのに。
いや確かに目の前にいるが。
「仕方ないわね、もう」
呆れていたリアが蔦を切りながらフィーネを下ろしていく。
器用なことだ。
それはそうと、この調子で全部かかっていたらキリがない。
心臓にも悪いし。
「フィーネ、一旦戻ってろ。チェックが進まん」
「えぇ~、お兄ちゃんが行けって言ったのに」
「いいから戻れ」「はぁい」
行く時と同じような不貞腐れた顔で戻っていく。
まあフィーネは休んでてもなんとかなるか。
「私分かってきたわ。貴方実はそんなに人でなしじゃないわね?」
いきなりやたらと失礼だな。
しかも失礼してるとは思えない笑顔で。
「今まで何だと思ってたんだよ。殺人鬼かなんかか俺は」
「そんな雰囲気出てるから言ったんでしょ。何かに取り憑かれてるみたいな顔してるわよ」
大丈夫かよ俺。
「んで?何の話か忘れたじゃねえか」
「何だったかしら…ああ、魔力源よ魔力源。どこにおいてるんだっけ?」
思い出した。
全く、記憶は儚いな。
「当然自分の部屋だ。長い間細工するにはそこが1番やりやすいからな。今から見に行くか?」
「もちろん。そもそも魔力源を作るなんて発想なかったわ。どうやったらそんなことができるのかしら」
魔術師なら作りそうなもんだが。
陣地作成だの魔術工房だの、結構有名だと思っていた。
まあ禁忌魔術だと何かしら違うのだろうか。
さて、自室にて。
リアは青白く光る球体を興味深そうに眺めていた。
傍から見れば天球儀のように見えるそれが、構築した魔法陣の核である。
そこから、薄く光るラインが部屋の外まで伸びる。
まだ繋げていないが、各種魔法を血管の様に結ぶ形で魔力を供給する。
魔法とはいわゆる公式のようなもので、数字を代入、つまり魔力を供給することで初めてその力を発揮する、というわけだ。
「まあ貯められるのはわかったけれど、これってもしかして魔力を作れるわけじゃないのね?」
「残念ながらその通りだ。すまんが、準備が完璧だといったのは本当に"準備"だけでね。装置そのものは出来ているが動かすのはまた別の話だ。こいつは、いわゆる貯蔵庫兼送信機ってところか」
無限に溢れるならそれはもう永久機関だ。
「で、繋ぐのはすぐ繋げられるから、魔力を貯めるのを手伝ってくれ。1人だとどうも足りなくてね」
あの量だ、一定時間動かすだけですぐに枯渇する。
1人の(それも魔術師ではない)魔力の自然回復量分入れたところで大して貯まってないのが実情である。
…自分が戦えなくなったら意味が無いからな。
つまりこれが、最後の準備かつ要というわけだ。
「わかったわ。力を消耗しすぎない程度に手伝うとしましょう。それなりに力になれると思うわ。…来るまでに貯まるといいのだけれど」
全くその通りだ。
あとでフィーネにも協力させるとしよう。
―――しかし、そんな楽観的な考えが通る訳が無いのだった。