インビジブルスカア
不可視の矢が、右肩を、左足を、頬を削っていく。
至る所から鮮血が散る。
「…ってぇなおい!」
「大丈夫?!早く回復魔術を…!」
「これぐらい大丈夫だ、自分の事に集中しろ!」
僅かな隙をついては反撃しているが、ほとんど効果をあげていない。
そして鳴り止まない風の音。
攻防同時で敵は不可視というのはあまりに不利すぎる!
「あと30秒待って」
「…っ」
フィーネの呟きを聞き、2人で弾幕を厚く張る。
当たらなくていい、制圧射撃。
「禁忌を犯した反逆分子は随分と生き汚いな?そうまでして生き延びたいか、兇徒よ」
「誰が兇徒よ!誰も傷つけたりしてないでしょう!?」
「大虐殺」
「っ?!」
また俺の知らない現実。
この2人はどれ程のモノを抱えているというのか。
「存在そのものが不安を煽り、心を傷つけ、平穏を乱す。それが貴様らだ。これを兇徒と呼ばずしてなんと呼ぶ?或いは世界の癌、或いは生命の毒。あの忌まわしき力を宿しているという事実が、生きていることこそが人を不幸に陥れているんだよ貴様らは」
コーディリアの顔が大きく歪んだ。
「――っ!!何も知らずに偏った思想ばかり語って!どれほど…どれほど私達が苦しんだと思ってるのよ!貴方は何も知らない偽善者!無知のまま無意味な殺戮をする管理局の人形よ!」
「コーディリア今は抑えろ!矢を避けきれていない!」
彼女の何かに触れたのか、普段では想像もつかないほど荒れている。
2人をカバーしながらでは流石に厳しい…!
「殺戮人形?さてそれはどちらかな?私が願うのは平和な世界に平穏な生命。それ以外の何者でもない」
「ふざけてるの?!貴方達からだけはその言葉を聞きたくない!」
「リア、お兄ちゃん、伏せて!」
「頼んだ!」
周りが見えていないコーディリアを押し倒す。
まだ何か叫び続けている。
「"不可視を飲み込め、黒き獣よ。恨め、憎め、その穢れきった未練を大牙に塗りて。さあ目覚めよ、汝が供物は今ここに!"」
裏路地で見せた黒い何か。
今は、獣の形として認識できるくらいには安定していた。
黒獣は森、即ち魔術そのものを喰らっていた。
5体のそれを今度はある程度コントロール出来ているようだ。
「――魔術喰い(ルーンイーター)。死霊魔術を使えるようになっていたか。ますます正義とはかけ離れていくな。だが、まあこれだけ戦力情報が得られれば充分だ」
結界が消える。
逃げる気か!
「させるかよっ!!"振動波"!!」
フードが舞う。
斬撃はコートの端すら切り裂けない。
……早い!
「亜光速の衝撃波…ソニックブームか。随分と芸達者だな。また会おう反逆者。遺言でも考えておけよ?」
声と光と共に、黒いその姿はかき消えた。
1人の心に傷を残して。