インビジブルアロー
「え、迷う?」
「だってこんな森…森?こんなとこあったっけ?」
何かに、迷い込んだ。いや、迷わされた?
多分、外とは遮断されている。
「……何が起こった?」
「気をつけて。もう私達は魔術にかけられてる。あと少しだからって油断したわ」
最初に跳躍してきた何も無い丘。
のはずだったが、今は鬱蒼とした森へと姿を変えている。
「また…?もうフィーネ嫌だよ……」
「まだ襲われると決まった訳じゃない」
だが、友好的なモノではないのは確かだろう。
「幻覚系じゃない…広範囲の結界ね。隠れてないで姿を見せなさい!」
コーディリアがそう叫んだ時。
―――ヒュンッ
「っ?!"盾"!!」
何かが右手の先で弾けた。
当たったら…無事では無かったかもしれない。
そこに明確な敵意と殺意を感じる。
風に揺れる木々。音も無く光も差さない暗い森。
「不可視の魔術矢…?見えない姿…結界の森…まさか」
―――ヒュンッ
「気をつけて!敵!管理局よ!」
「ちっ、見えないと防ぎにくい!」
言った瞬間、まるで今の2本は名乗りの為だった、と言わんばかりに猛攻が始まった。
木の葉が舞い、至る所から風を切る音。
3人が3人とも防戦一方となる。
「ほんとに何も見えないのね!」
「…2人ではなかったのか。言霊遣い、それも異常に強力だな。情報伝達はしっかりして欲しいものだ」
声の位置で把握出来るかと思ったが、反響してるせいで何も分からない。これも魔術だというのか。
「ほんとにってことは何か知ってるのか?!」
「矢を防ぎながら聞いて!そいつはロビンフッドって呼ばれてる管理局の戦闘員!」
「よくご存知で。流石は異端者、何処かで盗み聞きでもしたのか?」
「うっさいわね!見えない矢と姿は結界のせい!」
そう説明している間も、風の音が鳴り止むことはない。
「結界"義賊の森"。入ってしまった時点で勝敗は決している。虫けらの如き足掻き様、いい見ものだ」
「ロビンフッドねぇ……皮肉だな、少数を駆逐する側にいるってのは。史実の本人が見たら泣くぞ?」
「私は正しい正義を実行しているだけだ。そら、無駄口叩いてると死ぬぞ?」
「ちっ…コーディリア、結界の破壊方法は?」
「簡単に壊れたら何の為の結界なのよ。でも取り敢えず森を壊す!――Causa Satani!!」
コーディリアの詠唱と同時に爆発が巻き起こる。
大木が何本も火柱となるが、結界そのものは弱くなる気配を見せない。
「この空間のどっかにはいるんだろ、そいつは。なら――"短機関銃"!」
手当たり次第にバラ撒く。当たるにしろ防ぐにしろ何かしら変化がある筈だが。
「どこにいるんだよ…?!まるでいないみたいじゃねえか!」
「ふっ…くく……どこを狙っている?適当に撃って当たるとでも?随分と見くびられたものだな」
…上かっ!
銃口を向けると同時に上空で木の葉が不自然に舞った。
だがその後の位置は全く把握出来ない。
「遅い、遅すぎる!」
声よりも早く、幾本もの矢が襲う。
一瞬攻勢に転じた分防ぐのが間に合わない。