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魔王ちゃん観察日記  作者: カカカ
8/28

マオちゃんの異世界生活 5日目

 

 夏だけど、早朝は結構涼しい。

 半袖シャツなら畑仕事しててもあんまり汗が出なかったりする。

 森に囲まれてるせいかな?

 都会にいた頃は朝でも普通に暑かったし。


「ふぅ」


 あらかたの作業が終わって一息つく。

 畑を見渡すと青々とした苗がわさわさ生えてる。

 実ったインゲンや茄子もいい感じにぷっくりしてきている。育ってますねぇ。


 感慨深いなぁ。

 収穫したらどう料理してくれようか。


 ……てか早熟なやつは、もう食べられそうだな。

 熟れたらさっさと収穫しないとね。

 地面に落ちて傷んじゃうともったいない。


 今年初めての収穫に胸が踊る。

 なにかしら凝った料理にしようか、それともシンプルなものにして素材を楽しもうか……。そんなことを考えながら、鼻歌交じりで家に戻った。





 一時間後、居間にて。


「「いただきます」」


 マオは案外すんなりと「いただきます」を言ってくれる様になった。

 かなり嫌がっていると思ってたんだけどなぁ。

 なんというか、子供は気分屋だ。


 ちゃぶ台の上には、卵とインゲンの炒め物。

 早速とれたて野菜を使ってみた。

 塩コショウだけの簡単な味付けだから、そのまま素材の味が問われる料理。

 これで今回の出来を確認するつもりなんだけど、ワクワクとドキドキが半々、って感じかな。

 多分美味しい。そのはず。


 その炒め物に合わせて、我が家には珍しく食パンとインスタントのコーンスープが。

 ご近所さんの田中さんから貰った自家製イチゴジャムを、上手く食器が使えないマオの代わりに塗ってあげる。


「このくだもの、なんでつぶしてあるの?」

「砂糖と混ぜ合わせて、長く保存するためだよ」

「ふーん……?」


 よく分かってなさそうだね。

 ジャムの説明って難しいなぁ。

 でもまぁ、とりあえず食べれば味は分かるか。


「はいどうぞ」

「んー……くんくん」


 ジャムの塗られたところに鼻を近づけるマオ。

 なんか警戒してる。


 うーん……まぁ確かに、改めて見るとグロいよね。

 ファンタジー世界で例えるなら魔物が口から飛ばしてきたり、矢の先端に塗って状態異常つけたり、そんな感じの見た目って気がする。


 とりあえず俺が先に食べますか。

 ジャムをたっぷり塗って噛り付く。


 うん、相変わらず美味い。

 イチゴ本来の風味がふんわりと香ってくる。

 甘いだけじゃなく、素材が持ってる酸味もいいアクセントになってて堪らない!


 ちらっとマオを見ると、じーっと俺が食べる姿を観察していた。でも気付かないフリをして、美味しそうに食べ進める。

 その姿に安心したのか、マオも一口パクリ。


「ん!うまい!!」


 お、気に入ったみたいだね。

 すごい勢いで食べ進めてる。

 なんかちょっとだけ嬉しいかも。


 ……ちなみにインゲンは全部残されちゃいました。

 結構へこむなぁ。美味しいのに。


 まぁ確かに、ちょっとだけ苦かったけどね?





 朝食後。

 皿洗いを終えて居間に戻ると、うつ伏せでタマを熱心に見つめるマオの姿があった。

 五日前に敗北したリベンジ……いや、昨日の神様とのやり取りから考えると、仲間にするつもりかな?


 どちらにしろ、うちのタマは一筋縄にはいかないだろうなぁ。

 どうなることやら。


「むむむ」

「……」


 難しそうに唸りながら、タマと同じ目線の高さでにらめっこを繰り広げている。

 あ、匍匐前進で距離を詰め出した。


「のそのそ」

「……」


 そんな怪しいマオを前に、タマは我関せずと日向ぼっこ。

 大きく口を開けてあくびまでしている。

 余裕だなぁ。


 しばらくして、少し多めに距離をとった位置でマオが前進をやめた。

 そのままゆっくりと背中に手を回し、ズボンと腰の間に刺したジャーキーを握りしめ……いや、どこに入れてんねん。

 なぜかウエストがぐるりとジャーキーで囲まれてしまっている。てか、腕や足、頭にまでジャーキーが麻ひもで巻き付けてあった。


 かなり間抜けな見た目だけど、本人は至って真面目な様子。最大限の警戒態勢なんだろうね。

 そんな犬用オヤツまみれのマオが、そろりそろりと右手のジャーキーを動かしてゆく。


 一分ほどかけて鼻先に差し出されたそれを、タマは横目でチラッとみた。しかし鼻を少し動かした後、すぐにそっぽを向いてしまう。


 ……タマは割とグルメだからなぁ。


「……」

「……」


 それでもめげずに、じっと差し出し続けるマオ。

 一人と一匹の静かな戦いが繰り広げられている。


「「……」」

「「…………」」

「「………………」」


 うん。

 長くなりそうだし、本の続きでも読もう。





 三十分後。

 ゆっくりと小説を閉じる。

 期待を裏切らない熱く激しいバトルだった。

 胸が熱くなって、皮膚がチリチリする。

 そんな読後感をじっくり楽しんでから、マオの方に目を向ける。


 そこにはうつ伏せのままで、すぅすぅと寝息を立てるマオの姿が。

 タマはといえば、いつの間にか居間を出て縁側で丸まっていた。


「あー、寝ちゃったか」


 集中力が切れたんだろうね。

 じゃあもう一冊読もうかな…………あ、起きた。

 すぐさま右手のジャーキーを確認するけど、残念ながらまったく減っていない。


 すごく不服そうな顔でジタバタするマオ。

 畳がいい音を立てている……あ、やめた。

 目を見開いて口を大きく開けた。なんか思いついたのかな?

 すくっと立ち上がって、こっちに走りこんでくる。

 そして、


「ねこようのやつ!!」


 そう言って手を差し出した。

 あぁ、なるほど。猫用オヤツをくれと。

 でもタマはマオの事、下に見てるからなぁ。

 すんなり行くかどうか。


 とりあえず冷蔵庫上のバスケットから、真空パックのササミ肉を取り出す。

 受け取るマオ、の背後で目をギラつかせるタマ。

 完全にロックオンされとる。


「いいか、タイミングを見計らって……」

「おりゃ!」


 あー、やっちゃった。

 無防備に全開封するのはマズイ。

 案の定、音もなく飛び出したタマが目にも留まらぬ早業で、マオの手からササミを強奪してしまった。


「こらぁ!!かえせ!!!」


 ササミをくわえた家猫追っかけて、裸足で駆けてく元気なマオ。

 ドタドタと足音が跳ね回ってます。

 怪我しないように見とかないとなぁ。

 って訳で、俺も運動会に参加。

 右に左に行ったり来たり。柳家にホコリが舞う。


「ううう!」


 当然ながら、まったく捕まらない。

 タマ素早いからなぁ。

 時々立ち止まって俺たちの様子を見ながら、美味そうにササミ肉をもぐもぐ。

 余裕がありあまっているみたい。

 ……あ、ちょうどタマのそばをクロが通った。


「あ!クロ、いけ!!」

「くぅ〜ん」


 命令されるのはいいけど、「格上の存在を倒せ」という無茶振りに、尻尾を巻いて鳴くしかない様子。

 あ、でも走り回るマオの後ろには付いて行くみたい。さすがは犬。義理堅い。

 ……いや、まぁ、魔獣なんだけどね。


 そんなこんなで走り回るうちに、タマはササミを全部食べきってしまった。


「むぅ!!」


 強敵に軽くあしらわれ、味方も戦意喪失。

 二戦目も完封負け、という結果に悔しがるマオ。

 ぷくぅーっと頬を膨らませたマオが、タマを至近距離から見つめている。


 一方タマは、それを尻目に満足気。

 くるんと丸まり、日向ぼっこを開始した。

 強者の余裕ってやつかな?


「タマは少し気難しいからなぁ……」

「こみゅにけーしょん、いみないの?」


 マオの瞳が揺れている。

 だから、しっかり目を合わせて断言した。


「そんな事はない。ただ、色んなやり方があるんだ」

「いろんな……?」

「たくさん話しかけたり、一緒に遊んだり、毛づくろいしたり。コミュニケーションは物をあげるだけじゃないんだよ」


 眉間にしわを寄せて、タマをじっと見つめている。

 何か自分なりに考えているみたいだね。

 しばらく見守る事にしよう。


 小さな指が何かを探るように、狭い額をちょんちょんと突く。 陽だまりの中で、もふもふの尻尾が不機嫌そうに揺れた。





 夕飯時。

 すっかりジャムを気に入ったマオが、白ご飯を赤く染めようとしていて焦った。

 子供の発想力は本当に恐ろしい。


 もちろん必死で止めた。

 さすがに無理だよね。日本人として。





 〜本日の観察結果〜

 猫と仲良くなる方法を考え始めた

 ジャムが好物になった


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