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魔王ちゃん観察日記  作者: カカカ
27/28

マオちゃんの異世界生活 27日目

 

「やあ柳少年」


 そう言って酒屋の坂木さんが室内に入ってきた。いつものよれた(・・・)Tシャツと短パンをだらしなく纏った彼女は、壁際のパイプ椅子と長机が置かれた休憩スペースに真っ直ぐ向かう。机の横にクーラーボックスを置くやいなや、パイプ椅子にぐでんと座った。



「あ、坂木さん。差し入れありがとうございます」


 中には凍らされたスポーツ飲料が詰まっているはず。重かったんだろうね。肩を回している。

 その度に脇の下あたりの布が無防備になる。でも色気は感じられない。だらしない空気とか酒臭さのせいで。残念な人だなぁ。

 とはいえ、何気に商店街の戦力として奮闘しているんだよね。


「そういえば、ネット販売が上手くいってるらしいですね」


 このお祭り作戦において、彼女の経営する酒屋は屋台出店でビールを販売している。

 お祭り価格で売れるため、なかなかの儲けになっているけれど、それに加えて黄桜さんが手配した酒屋のホームページが地味に好評なのだ。


「ああ、売行き好調さ」


 この前、ネットサーフィンがてらに覗いてみたけど、全体の配色が明度低めで纏められていて、程良くアングラな空気が漂っていた。

 それに加えて、内容が尖りに尖っているのも高評価の要因だ。まず商品の項目は『店主のオススメ』しかない。定番商品は皆無。厳選されすぎて寂しい商品数に反して、平気で一万文字を超えて書き込まれた、完全に悪ノリとしか思えない商品説明。店棚に貼れる小さなポップでは書ききれなかった酒への想いが、改行どころか句読点も最小限でぎゅうぎゅう詰め。大抵の人間は読む気が起きない。普通ならあり得ないよね。めちゃくちゃ使い勝手の悪い通販サイトだと思う。俺はオススメしかない時点でげんなりして、長すぎる商品説明を見た瞬間、即刻ブラウザを閉じたし。

 でもそれがむしろディープな酒好きにウケているらしい。

 有名どころを飲み尽くした人からすると、どストライクのサイトなんだとか。ニッチ過ぎる。


「お陰でうちの店に眠ってたお気に入りたちが大放出されてしまったよ」


 肩をすくめ、哀しげに語る坂木さん。

 各地から隠れた名酒を探し出しては、自分が楽しむついでに販売も行う、くらいのスタンスで陳列してるからなぁ……。売れなければ飲んじゃおう、とか思ってたんだろうなぁ。

 なにせ主な収入源は、飲食店とかに卸すビールらしいからね。店頭での販売はただの道楽だ、ってこのまえ言い切ってたし。


「売れてるんだから、いいことじゃないですか」

「まあ理屈ではそうだね」

「理屈で納得して下さいよ。大人なんですから」

「柳少年、それは的外れというものさ」


 彼女はよれた襟元、いや心臓のあたりを指差し、口元をくいっと持ち上げる。


「大人か子供かは関係ない。人間には先ず感情があり、そいつを言葉にするために理屈を使うのさ。酒で言えば、瓶でありラベルなのだよ」


 どんな理屈を貼り付けようとも、その味は、風味は決して変わらない。そう言って人差し指を立てる坂木さん。

 ダメな大人だと思う反面、不思議な含蓄もあった。

 ただの呑兵衛ではないのかもしれないね。

 ……むしろ、ただの呑兵衛ならでは、なのかな?


「……ま、ネット戦略で言えばこの子達が一番の成功例だけどね」


 突然、目線と話を逸らす坂木さん。ドヤ顔に対して突っ込みが入らなかったので、照れたのかもしれない。

 その視線の先ではマオ、勇者、そして女神が曲に合わせて真剣な表情で踊っている。


 俺達がいるのは公民館の一室。壁面に大きな鏡が備え付けられたそこは、町おこしの一環として社交ダンスブームの折に作られたらしい。

 まさかこんな設備があるとは。

 税金の無駄遣いな気もするけど、今回は結果オーライ。

 その使われなくなって久しいフローリングの上を、三人の女の子が曲に合わせて真剣な表情で踊っている。

 土日に行われるアイドルステージに向けて練習中なのだ。

 ただの素人を見に来る奴はいないだろう、と思って俺も商店街のみんなも期待してなかったんだけど……マオ達を紹介するホームページはとんでもないアクセス数を叩き出していた。


「もの凄いアクセス数でしたよね」

「あの数は異常だと思うよ。無論、彼女達の頑張りは認めるところだけれど」


 その通りだよね。流石に注目度が高過ぎる。


 まあ、確かにポテンシャルはあると思うよ? 

 正統派、色物、ロリっ娘っていう、バランスの取れた布陣。

 日本人離れしたルックス。

 異世界から来た、という真実故に細部まで詰められたキャラ設定。

 ……改めて考えてみると良さげなユニットだなぁ。

 それでも、ほんの一週間程度であの注目度は無茶苦茶だ。


「まったく、あいつの手腕には驚かされる」

「俺の手柄ではない。リィンさんが魅力的過ぎるのだ!! ……まぁこの件に関しては、前々から動画配信とかしてたからな。当然だが地力が違うってもんだ」


 しれっと会話に混ざってきたのは黄桜さん。ちょうど様子を見に来たところみたいだね。てか、聞き捨てならない台詞を聞いた気がする。


「あの、元々ってどういうことですか?」

「言ってなかったか。俺があっち・・・にいた頃、リィンさんのアイドル活動を応援していたのは話したよな?」

「はい」

「その時に当然、アイドルとしてライブとかもしているんだが、その様子を何度かネットにアップしていたんだ」


 まじか!? 異世界ってネット通じるのかよ!? そんなよくある便利チート、おれは提示されてないんだけど!!??

 俺の時に提示されたチートは『相手を二メートル吹き飛ばす風魔法』だったんですけど??


 詳しく聞いたところ、黄桜さんのチートは「特定の相手をノーコストで支援できる」という使い道にもよるけど、かなり強力そうなチートだった。パネェ。

 その能力でもって、本来なら莫大な魔力の要る『世界間情報転送』の術式をノーコストで行使していたそうな。支援の解釈が広すぎてやばい。

 ただ、細かいコントロールが難しいらしく、こっちの世界の有名動画サイトへアップロードする際、紹介文とかタイトルを付けることができず、『異世界アイドル』とだけ表記したんだとか。


 情報を絞られ過ぎると気になってしまうのが人情というもの。

 動画の中で歌って踊る女性は誰なのか。この神殿みたいなライブ会場は何処なのか。そもそも異世界とはどういう事なのか。

 どこの回線からアップロードされたかすらも分からないその動画は、『マジで異世界なのでは?』と一部のアイドルオタクやネット住民たちの間で噂になっていた、らしい。


「俺も日本に戻って驚いたぜ。こんなに話題を集めていたとはな」


 そんなこんなで、密かに注目度の高かった女神を中核とした、異世界発のローカルアイドル「Myth Lyrics」の初地球ライブが土日の目玉企画として用意されているわけです。

 ……いや、どういう事やねん。もう自分で言ってて訳がわからないよ。うん。


 まあそんなよく分からない事柄より、ここにある現実が重要だよね。

 目線を前に戻すと、そこには鏡の前で必死にダンスと歌の練習をこなす三人の女の子たち。


 女神は慣れたもので、流れるような動きと安定した歌唱力を発揮していた。ここは特に問題ない。


 勇者はというと……まぁダンスはいいよね。流石は勇者。キレッキレだ。ダンスの合間にボディビルのポーズを挟む余裕まである。歌は、まぁ、うん、頑張れ。


 で、心配なのはマオなんだよね。

 歌もダンスも頑張って練習してるし、なんとクロ、タマと一緒に踊るので、ダンスの拙い部分を補って余りあるエンターテイメント性が確保されている。観客には十分に見せられるレベルなんじゃないかな。

 問題は人が来なかったときにマオがショックを受けてしまう可能性があることだよね。黄桜さんは話題性があるなんて言ってるけど、実際のところはどうなのか。ちゃんと人が集まるのかが本当に不安。まぁ、商店街近くの特設ステージで野外ライブするだけだし、マオを可愛がってるおじいちゃんおばあちゃんが来れば十分か。


 ……なんてこの時の俺は思っていた。考えが甘かったんだ。そのせいでマオが傷付くことになるとは、思いもしなかった。



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